「開業医のための骨粗鬆症の診断と治療」 近畿大学医学部奈良病院 整形外科・リウマチ科

「開業医のための骨粗鬆症の診断と治療」 近畿大学医学部奈良病院 整形外科・リウマチ科

日本骨粗鬆症学会理事長である先生の講演は、骨粗鬆症診療全般に渡り、大変実際的な内容のお話でした。まず、骨粗鬆症の定義としては、骨強度の低下を特徴とし、骨折リスクが増大する骨格疾患、骨強度は骨密度が70%、骨質が30%を担う、とした。骨粗鬆症の骨折の代表は椎体や、大腿骨近位部骨折であり、非脆弱性骨折が特徴。特に、大腿骨近位部骨折が重要で、一旦起これば、手術の有無に関わらず、5年生存率は50%以下と予後不良。診断基準は、脆弱性骨折の有無と骨密度で評価する。FRAX10年以内の骨折発生率を予測するもので、閉経後女性と50歳以上の男性で使用可能。骨粗鬆症の薬物治療では、有効性の評価がオールAのものを選択すべき。薬剤は、アレンドロネート、リセドロネート、ゾレドロネート、デノスマブが該当する。ステロイド性骨粗鬆症の場合では、3か月以上プレドニン7.5mg以上の使用が予想されれば、年齢に関わらず骨粗鬆症治療を行うべき。第一選択薬は、アレンドロネート、リセドロネートである。今後はゾレドロネート、デノスマブも候補になる。薬剤の特徴を見た場合、ビスフォスフォネート(BP)、デノスマブは骨リモデリング抑制剤で、海綿骨、緻密骨ともに有効、テリパラチドは骨リモデリング促進剤で海綿骨には薬剤中一番有効性が高いが、緻密骨では多孔性を増大させマイナスの作用が危惧される。BP製剤やデノスマブによる非定型骨折、顎骨壊死に関しては、その発生頻度は著明に低く、車乗車の際のシートベルト着用の有効性と着用に伴うリスクの関係に擬せられ、使用を避ける理由にはならない。歯科医からの休薬要請の問題は、口腔外科学会のガイドラインがあり、休薬すべきでないと示された。治療目標は、まず治療前に患者とゴールを決める必要がある。骨密度であれば骨粗鬆症領域からの離脱であるが、大腿骨近位部での評価が重要で、病診連携の必要が出てくる。治療中骨折が起こった場合は、治療に反応していてもより強力な薬剤に変更するか、変更できる薬剤がなければそのまま継続して、3-5年間骨折がなければ通常のゴールを使用する。治療薬を使用する順番としてはテリパラチドを使用して骨吸収抑制剤に変更するのが良いが、現在は保険で認められていないので不可能。ドラッグホリデーに関しては、BP製剤は残存効果があるが、他の薬剤では認められない。特に、デノスマブにはリバウンドがあり、中止により骨密度の低下が認められるので、BP製剤への切り替えが必要。
(要約:春名優樹)

第36回春季学術講演会

第36回春季学術講演会

第36回春季学術講演会
「日常よく見られる肩肘疾患の診断と治療」
信原病院・バイオメカニクス研究所
顧問 整形外科 金谷 整亮 先生

1、肩の解剖
肩は3つの解剖学的関節
① 肩関節、②肩鎖関節、③胸鎖関節と、
3つの機能的関節
①肩甲胸郭関節、②第2肩関節、③第2肩鎖関節がある

2、診察
① 問診のポイント
患側が利き手か非利き手か、スポーツ歴(特に野球、ソフトボール、バレーボールのように肩を酷使するスポーツ)、職業(大工、左官、重労働)を問診の際に聞いておく必要がある。
② 肩の診察の際には
① 可動域(ROM)測定、②筋力テスト(MMT)③ 日常生活動作群(ADL)
の評価を行う。
③ 理学所見:各種テストを行う
今回はInstability,laxityを検査する上で
Anterior apprehension test(対象:前方脱臼・亜脱臼)をご説明頂いた。
坐位で肩関節90°外転位、肘を90°屈曲し、前腕は回内外中間位として、外転位を保持したまま上腕骨頭を前方に押しながら肩関節を外旋する。
外旋時、脱臼不安感を訴えれば、陽性である。
④ レントゲン:下垂位内外旋と挙上位の3方向は最低限必要。
⑤ 関節造影:
ウログラフィン10ccと0.5%キシロカイン20ccを使用。
単純レントゲンと同様に3方向撮影。
肩を90°外転位とし内旋を加えることにより、肩甲下滑液包の閉塞が改善され、疼痛が軽快することが多い(Joint distension)。この時、挙上方向にmanipulationを加えることもある。
肩甲下滑液包閉塞の臨床的意義
肩甲下滑液包の閉塞は肩関節疾患の34.3%に存在している。
関節内減圧は注入液圧により15%、関節運動により33%獲得可能。



各論

①肩関節周囲炎
40歳以降に発症する有痛性の肩関節制動症で、原因は不明。
原因となる部位は、肩峰下滑液包、腱板、関節包、烏口突起、上腕二頭筋長頭腱が考えられている。
Ⅰ、診察のポイント
烏口突起に圧痛があることが多い。
特徴的な画像所見がない。
DMを合併している場合、重症で両側性の場合が多い。
Ⅱ、鑑別診断
a,腱板断裂
他院で五十肩や肩関節周囲炎と診断され、なかなか治らないため当院を受診さ
れた患者さんで腱板断裂と診断された方は多い。疑わしい場合はエコーやMRI
をとることが望ましい。

b,頚椎症性神経根症
肩周辺は主としてC5神経根によって支配されている。肩関節に異常所見がなく
肩の痛みを訴える場合、本症を疑うべきである。

Ⅲ、治療方針
a,急性期
NSAID,ヒアルロン酸NAや局麻剤・ステロイドの注射
b,慢性期
運動療法、関節造影によるjoint distension
Ⅳ、問題点
凍結肩となりなかなかリハビリに反応しない症例がある。関節拘縮、
烏口上腕靭帯の内旋位での拘縮、大円筋・広背筋の拘縮が原因と思われる。
2か月以上たってもリハビリに反応しない症例には関節鏡視下の授動術も考慮
する。

②石灰沈着性腱板炎
40~50歳代の女性に好発
Ⅰ、原因(石灰沈着物はハイドロキシアパタイト)
1) 肩峰下での機械的圧迫により腱板の栄養血管が減少し、腱板が低酸素状態となり軟骨細胞が出現し石灰化。
2) 腱細胞内外のイオンバランスの変調によりカルシウム塩が析出。
Ⅱ、診断
レントゲン写真で石灰沈着を確認し、圧痛点と一致しておれば診断は容易。
Ⅲ、治療
NSAID,シメチジン
体外衝撃波治療(ESWT)
国内適応疾患:足底筋膜炎
国際衝撃波治療学会(ISMST)の適応疾患
(足底筋膜炎)アキレス腱炎、上腕骨外上顆炎、石灰沈着性腱板炎
膝蓋腱炎、骨折遷延治癒・偽関節、疲労骨折
(日本では適応となっていないので、自由診療で扱っているようです。)

慢性期でインピンジメントを起こしたものには手術で石灰を除去。

③腱板断裂
断裂は血行の乏しいcritical portionに起こりやすい。

Ⅰ、原因
加齢やオーバーユースにより、腱板に変性や関節面断裂を生じ、外傷が加わり完全断
裂になるのが一般的である。中には全く外傷がないのに完全断裂となっている症例がある。(特に高齢者)

Ⅱ、分類
a,完全断裂: 小断裂、中等度断裂、大断裂、広範囲断裂
b,不全断裂: 表層断裂(滑液包側)、腱内断裂、深層断裂(関節包側)
c,その他: 肩甲下筋腱単独断裂、棘下筋腱単独断裂、腱板間隙部縦断裂

Ⅲ、症状
夜間痛とpainful arcが特徴的な症状
挙上障害
拘縮(比較的若い症例で断裂が小さいものに多い)
棘上筋、棘下筋の筋萎縮(大~広範囲断裂にみられる)

Ⅳ、理学所見
大結節におけるcrepitusの触知
腱板機能検査(SSP test, ISP test, Lift off test)

Ⅴ、単純レントゲン
広範囲断裂では肩峰と上腕骨頭の間隙が狭くなっている。

Ⅵ、関節造影
完全断裂では肩峰下滑液包に造影剤の漏出を認める。
Ⅶ、MRI:斜位冠状断、斜位矢状断、肩甲下筋腱断裂には横断像が有効

Ⅷ、手術適応
a,外傷性腱板完全断裂
重労働者ではできるだけ早期に手術。その他は1~3ヶ月保存的加療を行ってもADLに支障があるもの。
b,非外傷性腱板断裂、陳旧例、不全断裂
挙上制限がなければ保存的加療を行うが、3ヶ月保存的加療を行ってもADL障害が強ければ手術。
挙上制限があれば早期に手術をした方が良い。
Ⅸ、保存的加療
安静、NSAID、肩峰下滑液包への局麻剤+ステロイドの注射

スポーツ障害(投球障害)

⑥ 投球障害のまとめ
1) 投球障害の予防には、腱板肩関節周囲筋群を強化し肩の安定性を高める。
2) 体幹、下肢の筋力強化を行い、肩の負担を軽くする。
3) 投球前のウォームアップと投球後のクールダウンを確実に行う。
4) 投球フォームのチェックを行う。
5) 体全体をつかってうまく最大外旋、ゼロポジションに導かれるように指導する。

⑦ 肘の投球障害
1) 外側障害(離断性骨軟骨炎 Osteochondritis Dissecans OCD)
2) 内側障害(内上顆のfragmentation)
3) 後方障害(肘頭偽関節)
Ⅰ、離断性骨軟骨炎 OCD
初期は上腕骨小頭外側の透亮像(骨壊死)。
発症しやすい素因が存在する。
投球による上腕骨小頭へのストレスが原因と考えられている。
a,病期分類と平均発症年齢
透亮期: 外側型、中央型 11歳
分離期: 前期型、後期型 13歳
遊離体期:巣内型、巣外型 14歳

透亮期は通常、痛みなどの症状がないことが多いので、分離期以降に痛みや可動域制限のために病院を受診する。
b,レントゲン写真
上腕骨小頭前方に発生するので、正面像のレントゲン写真では分からない。
タンジェンシャルビューが必要。(肘屈曲45°で撮影)
c,エコー
スクリーニングとしてレントゲン被爆の問題からエコーが有効。
エコーによる検診を行い、レントゲン写真で異常があれば、6~12か月間投球禁止。
透亮期のうちに投球を禁止させて、治療をはかるのが理想的。
d,治療
分離期、遊離体期では手術
Mosaic plasty(膝から骨軟骨柱を移植)

Ⅱ、内側障害(内上顆のfragmentation)
投球による外反ストレスで内側側副靭帯により牽引される。
1~2ヶ月の投球禁止で痛みがなくなれば投球を許可する。
レントゲン写真での骨癒合は2年かかる。
OCDを合併している場合は、OCDの治療を優先させる。

Ⅲ、肘頭偽関節(肘頭の骨端線の癒合不全)
治療として
スクリューによる固定
体外衝撃波治療(ESWT)

Ⅳ、肘の投球障害のまとめ
上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎は、痛みが出た時は既に病期が進み、手術が必要なことが
多い。
痛みがない時に、エコーを用いた検診は有効。
肘検診と投球制限が基本。
本格的に野球をするのは、骨端線が閉鎖する中学3年生以降でよいと思う。
(要約:高原 寛)

第36回 春季学術講習会

第36回 春季学術講習会

痛みの考えかた~心頭を滅却すれば火もまた涼し~

痛みの考えかた~心頭を滅却すれば火もまた涼し~

痛みの考えかた~心頭を滅却すれば火もまた涼し~
 三重大学医学部 麻酔集中治療学 教授 丸山一男先生

痛みの信号を伝える神経は、Aδ線維とC線維である。Aδ線維を介して脊髄に入力した信号は、視床を介して、体性感覚野に入り、痛む場所の判別に関与する。一方、C線維は、Aδ線維からの刺激が上行する経路を並走し、体性感覚野に入ると共に、さらに内側を上行し、大脳辺縁系(前帯状回、扁桃体、海馬、島など)に到達する経路を持つ。体性感覚野では、場所と純粋な疼痛を感じ、大脳辺縁系で不快な情動が湧きあがる。体性感覚野と大脳辺縁系からの信号が前頭前野に到達し、前頭前野で疼痛と情動が統合し、その人に痛みの知覚となる。したがって、痛みを感じている人が不快なのは正常な反応といえる。
身体には、自分で自分の痛みを抑える仕組みがある。痛み刺激を伝える神経は、大脳へ信号を送るとともに、脳幹(中脳、橋、延髄)へも刺激を横流しし、この信号が脳幹を介して脊髄を下行し、脊髄レベルでの痛みのシナプス伝達を抑える。これを下行性抑制系という。下行性抑制系の末端では、エンケファリンなどの内因性オピオイド、セロトニン、ノルアドレナリン、GABAなどが放出され、痛みの1次ニューロンからの神経伝達物質の放出を抑えるともに、2次ニューロンで興奮性シナプス後電位(過分極のことです)をもたらし、シナプス伝達を抑える。この系は、前頭前野での選択と集中により活性化でき、不安、心配、ストレスにより逆に抑制される。
非常に強い侵害刺激や長期にわたる連続した侵害刺激の脊髄後角への入力は、1次ニューロン終末からの神経伝達物質の放出を高めるとともに、シナプス後2次ニューロンでの活動電位発生の域値を下げる。電気生理的には、シナプス後でKが蓄積し、正常では閉じているNMDA受容体の開口し、NMDA受容体の開口に起因する閾値の低下がある。NMDA受容体は、海馬や小脳での記憶に関与するが、脊髄後角も存在し、脊髄レベルでの痛みの記憶の一旦を担っていると考えられる。
記憶は、繰り返すと強化される。冷却期間を置くと薄れる。いつも痛いと、脊髄後角で痛みを忘れることができない。ブロックや薬物によって、痛くない時間を長く作ることが、脊髄随での痛みを忘れさせる本質的治療である。普通の記憶に個人差があるように、脊髄での痛みの記憶を忘れるのにも個人差があるのであろう。
(参考図書 丸山一男 痛みの考えかた 南江堂 第4刷 2017

「痛み治療に対するインターベンショナル治療の役割

「痛み治療に対するインターベンショナル治療の役割

「痛み治療に対するインターベンショナル治療の役割
              〜当科での現状、海外での現状〜」
NTT東日本 関東病院 ペインクリニック科
部長 安部洋一郎 先生
当科は1976年のペインクリニック科開設以来、インターベンショナル治療を痛み治療の本幹と考え診断、治療に用いている。昨年の外来受診者数は延べ38.848人、入院患者数は延べ4940人であった。特に近年様々な疼痛治療薬が市販されており、当科初診の患者でもほとんどは投与されたうえで当科受診する。また、本年7月一か月の新患患者206人でおよそ54%の患者で神経ブロックを受けたが効果不十分で当科初診となっている。つまりは現状の薬剤療法、通常の神経ブロック療法でも患者満足度は低いといえる。この理由の一つに痛みの原因箇所に適切に治療薬が到達していないことが考えられる。我々はそのために様々なインターベンショナル治療を用いて患者の痛みを減らす。痛み軽減したうえで適切なリハビリテーションや痛みの悪循環をもたらす思考の改善を促す。
また当院はJCI(国際医療評価機構)病院であり、3回目の受審を受けた。1.2回目と異なり3回目は対外に報告するデータの信頼性を担保するデータの質の評価が加わった。当科では頸部神経根の同定やSGBの際必要なC6頸長筋の描出テストを研修生に課し、ダブルチェックを行うことで正確性だけでなく検査の精度も表示することとした。今後さらなる客観データを取るための包括尺度や疾患特異尺度を用いて当科での治療評価を示す予定である。
インターベンショナル治療のスタートは正確に患部に到達する神経ブロック技術である。硬膜外洗浄術は年間500例を超えて施行している。目的神経根だけでなく疼痛物質を生じる椎間板付近の硬膜外腔へ薬液を到達させるため仙骨裂孔アプローチだけでなく、後仙骨孔アプローチ、椎間孔アプローチを用いている。ラッツカテーテルも同様の方法で行っている。また、パルス高周波法の今後の可能性にも言及した。1度のパルス高周波法で3か月無痛の症例を提示した。また、高齢者の変性椎間板に対し、Disk FKによる椎間板形成術を行い下肢痛の軽減例を示した。他に最新Cアームレントゲン装置によるガッセル神経節ブロック、脊髄刺激療法の新しいモードの有効性について述べ、今後の病診連携の活発化をお願いした。

NTT東日本関東病院ペインクリニック科は日本でのフロントランナーであり、ここからの情報発信には皆が注目している。開業医レベルでは困難な治療法が多いがアンコントロールな患者に対してのバックアップは心強い限りである。エコーの普及によりペインクリニック領域でも運動器に対しての関心は高く、エコーガイド下神経ブロックも確実な解剖の上に行う重要性を指摘している。リハビリテーションと認知行動療法の重要性も講演中に何度か指摘しており、神経ブロック療法との併用は必要であることを再確認した。安部先生は、高校時代のバレーボール部での活動中に手関節を痛め、その時のブロック?が効いたことがペインクリニックを目指すきっかけとなったそうです。痛みが劇的に改善する神経ブロックは、医療機器の向上
により治療精度が上がって来ておりペインクリニシャンとしては今後、内科やリハビリに伴う運動器の診断技術も必須となってくること考えさせられました。

(要約 松田 真弥)

第36回 総会・秋季学術講演会

要約「痛みの考えかた 〜心頭滅却すれば火もまた涼し〜 」

「痛みの考えかた 〜心頭滅却すれば火もまた涼し〜 」                        三重大学大学院医学系研究科                          麻酔集中治療学  教授  丸山一男 先生
「痛い」という感覚は、ヒトなら誰でも経験済みです。自分の痛みは自分だけが
感じるものであり、本人でないと実際分からず、他人にはわかりません。自分の痛みは
自分の経験に基づいてたずね、その答えから推測する知覚・認識であります。
痛みの発生の仕組み→発痛物質や神経での電気活動→は、動物実験で得られた結果で
推察されているのです。
 まぜ痛むのか?という問いに、丸山先生は、実際に自身のすねを、手持ちの
マイクで思い切りたたき、Aδ繊維とC繊維の神経伝達速度の差を説明されました。
(Aδは100m/s、C繊維は1m/s)
 懇親会で先生のすねを見せていただくと、色が変わっていました。
本気でマイクでたたかれていたのです。これほど伝わる講演はありません。
 Aδ繊維、C繊維で発生した活動電位は、脊髄後角に入ります。脊髄に入った
刺激は、脊髄後角でニューロンを乗り換えるので、脊髄後角が第一中継点となります。
精髄後角でニューロンを換えた刺激はさらに第二中継点に向かいます。
第二中継点は脳幹(中脳、橋、延髄)と視床であります。視床に第二中継点を持つ
経路を脊髄視床路といいます。
 そして痛みの刺激は、最終的に脳に達します。侵害刺激によって発生した活動電位
は、痛む場所と強さを認識する部分(新皮質)と、快・不快をわき起こす部分(大脳
辺縁系に信号を同時に送ります。
 もしも痛みが快感だったら、いつも痛いことをするので怪我だらけになってしまいます。
脊髄後角には、痛みを伝える1次ニューロン、2次ニューロン、介在ニューロンが
存在しています。下降性抑制系の神経線維は、これらすべてにシナプス結合しており
シナプス結合部位は、様々に考えられます。
 そこで除痛のためには、①1次ニューロンのシナプス前終末部からの痛みの伝達物
質(グルタミン酸、サブスタンスPなど)の放出を抑えます。
②痛みの伝達物質が2次ニューロンに結合しても活動電位が発生しないようにします。
③その両者があります。
先生には、生理学的、生化学的な見地からも痛みの原理を解説していただきました。
  まとめとして
○痛みは電気的変化である。
○治療として神経の活動電位の発生を抑える。
○すべての治療薬は間接的、直接的に痛みの活動電位発生を抑制している。
○オピオイド、セロトニン、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、N型カルシウム
チャンネル阻害薬は、脊髄後角に作用する。
○複数の作用点を抑えて痛みを止める。
      (要約 久保田 泰弘)

「 かかりつけ医・非専門医のためのパーキンソン病診療 」

「 かかりつけ医・非専門医のためのパーキンソン病診療 」

大阪医科大学 内科学Ⅳ教室・神経内科 講師 中嶋 秀人 先生

『3分間神経診察法』を提唱し、簡単で効率のよい神経診察のコツを説いておられる
先生のご講演は、実際の我々の日常診療にとても役立つものでした。
 まず先生は病歴をとる前に患者さんの歩き方、表情、姿勢をチェックされます。
そして次に運動機能、反射、感覚、運動失調等を診て総合的に評価されます。
 動画を用いての患者さんの経時的な変化は、圧巻でした。マイケルJフォックス等
の動画も参考になりました。
 神経診察のための問診では2つのポイントを指摘されています。「症状から病変部位を推測」「発症様式から病因の絞り込み」の2点です。 まず、患者から症状を聞き取って、病変部位を推測します。このとき大事なのは、専門的に考えすぎないこと。つい「上肢の運動障害」といった専門用語にとらわれがちですが、日常の具体的な症状に落とし込んで考えましょう。「ペットボトルのキャップを開けられない」という訴えなら上肢の遠位筋障害と判定できます。下肢の遠位筋障害は「スリッパが脱げる」、感覚障害は「入浴時に温かさを感じない」といった具合。専門用語よりもずっとイメージが湧き、患者からのヒントを見逃さないためにも重要な捉え方です。
 次に、発症様式から病因を絞り込みます。発症様式と経過を確認することで、大まかな病因を決めることができます。例えば、「朝、トイレで急に力が入らなくなった」と,時間が特定できるような「突発性発症」の場合、血管障害の可能性が濃厚です。1週間以内に症状が完成する「急性発症」では感染、免疫性、代謝障害、中毒が考えられます。数週間から数カ月かかる「亜急性発症」は腫瘍、結核、真菌、免疫性を、数カ月以上かかる「慢性発症」では変性、遺伝性疾患を病因候補になります。また、発症と寛解を繰り返す再発性の場合は、多発性硬化症や片頭痛、てんかんの可能性を示唆します。 このように、イメージ病名を指針にすれば、この後、どこに重点を置いて神経診察を行えばいいかはおのずと決まります。
ただし神経学的検査所見だけを盲目的に信用するわけにはいきません。やはり神経診察のメインは問診、すなわち個々の病歴を把握することなのです。
 日常診療において、患者さんをよく観察することがいかに重要であるか、再認識させられた講演でした。
                          ( 要約 久保田泰弘 ) 

第35回 春季学術講演会

第35回 春季学術講演会

運動器・関節領域における超音波検査の有用性 ~肩関節を中心に~

社会福祉法人恩賜財団 済生会支部 大阪府済生会吹田病院
 院長 黒川正夫 先生

【はじめに】
肩痛の原因は肩関節を構成する腱板、上腕二頭筋長頭腱や肩関節唇などの軟部組織病変に起因するものが多いとされている。にもかかわらずX線検査だけが行われ、五十肩というあいまいな概念でお茶を濁し、診断が確定しないまま治療が先行して行われることが少なくない。的確な診断がなされないまま間違った治療が行われた結果、一時修復不能となった肩腱板広範囲断裂などの終末像に至る可能性もある。
肩痛の実例を挙げて肩関節超音波手技と所見のチェックポイントについて述べるとともに、肘関節、手、膝関節、足の関節や筋腱疾患への応用について有用性を紹介する。
【腱板を中心とする肩峰下で生ずる変化】
 肩腱板に対する超音波検査手技とチェックポイントは確立され、肩甲下筋腱、上腕二頭筋腱に対する検査手技、所見についても明らかになり、高い診断率が得られるようになった。
 腱板(棘上筋腱・棘下筋腱)エコーでは肩峰下滑液包の形態の変化、大結節の不整像の有無を観察し、異常所見が認められる場合には特に腱板内部エコーを細かく観察すると、異常所見の描出がより容易になる。腱板内部エコーでは長軸走査のFibrillar patternの不整、低エコー像やまだら状の不均質像の有無を観察し、短軸像で確認することで感度、特異度ともに向上する。この方法による腱板断裂の診断感度は95.6%、特異度は94.6%、正診率は97.6%であった。
肩甲下筋腱、上腕二頭筋長頭腱については長頭腱の脱臼・亜脱臼、肩甲下筋腱内の信号変化、肩甲下筋腱の菲薄化・膨化・輪郭の途絶、上腕骨小結節の不整像を異常所見と仮定すると、感度88.1%、特異度100%、正診率 92.8%であった。
すなわち超音波検査で肩腱板断裂の有無を診断することが十分可能であるが、残念ながら腱板の大きな断裂では肩峰下に隠れた腱板断端を観察できない。これを補いより正確な評価をするためにはMRIの併用が必要になる。
また肩峰下滑液包内注射や肩関節内注射の正確性の低さについては多くの報告があるが、超音波ガイド下の手技による肩峰下滑液包内注射、関節内注射などはその正確さゆえに診断・治療に極めて有用である。

超音波検査とMRI検査・X線検査の役割として、筋、腱損傷の診断は超音波、筋萎縮、脂肪変性の評価はMRI、骨折の診断はX線、CT検査と分類できるとの事である。
【その他の運動器・関節疾患の超音波検査の応用】
 肘関節については少年の野球肘検診に広く応用されている。超音波検査機器は屋外あるいはスポーツ施設などの診療所以外の場所でも検査が可能である。内側型、後方型、外側型(離断性骨軟骨炎)野球肘のいずれに対してもスクリーニングとして有用である。
 膝関節症については大腿骨顆部の軟骨変化、軟骨下骨の変化を検出でき、内側半月の内方への逸脱現象の程度も確認でき、X線、MRI所見と併せて手術適応の参考となる情報が得られる。
 手指屈筋腱々鞘炎や足の長母趾屈筋腱不全断裂、筋断裂(いわゆる肉離れ)、アキレス腱皮下断裂、足底腱膜炎の診断や治療法の選択、固定期間などの判断の参考にできる。またリハビリテーションの評価と効果判定にも有用な情報を提供してくれる。

超音波検査とMRI検査・X線検査の役割として、筋、腱損傷の診断は超音波、筋萎縮、脂肪変性の評価はMRI、骨折の診断はX線、CT検査と分類できるとの事です。
今回、黒川先生には超音波検査による肩関節の診断方法をわかりやすく講演して頂きました。画像のスライドも多く腱板の損傷に関しては知識が蓄積されたのではないでしょうか。
超音波検査の普及は目覚しく、近い将来には外来診療時のデイリーユースとなることが予測されます。当会では超音波検査に関連した講演を今後も行ってまいりますので、日々の診療にお役立てください。(要約 松田真也)
 

第35回 総会・秋季学術講演会

第35回大阪臨床麻酔科医会 抄録 H28.09.17.

演題:“スポーツ現場における医療の最前線”
 順天堂大学医学部 整形外科学講座 准教授 髙澤 祐治 先生

スポーツ活動中には様々な部位・種類の外傷や障害が起こる可能性があり、特に競技会など試合時における外傷発生率が高いことが報告されている。激しいコンタクトを伴う競技では、時に人生を左右するような重症外傷を発生する可能性があり、また近年ではスポーツ活動中における脳震盪の問題が社会的な注目を集めているという背景から、競技会をサポートするメディカルにおける世界基準、すなわちグローバルスタンダードは大きな変革期を迎えている。昨年、英国にて開催されたラグビーワールドカップでは、国際統括組織であるワールドラグビーから求められた競技会および各国メディカルスタッフへの要求は厳しいものであった。2019年のラグビーワールドカップ日本開催、2020年の東京オリンピック開催に向け、あらゆる想定される外傷・疾病に対して24時間対応できる医療体制の整備が急務である。ラグビーにおける外傷・障害の特徴として頭頚部、顔面外傷の増加がみられており、従来からある肩関節脱臼はトライのときに多く見られる。前十時靭帯損傷などは復帰に時間を要するが、治癒する疾患となってきている。脳震盪に対しては確認とプレーの中断が細かく行われるようになっている。「やかん」の時代から考えると飛躍的に選手の外傷に対する予防が進んだと考えられる。
一方、演者は今日まで様々なラグビーチームにおいて、チームドクターとしてサポートに携わってきた。近年、ラグビー競技におけるストレングス・スピード・フィジカルな発展はめまぐるしく、身体の小さな日本人が世界の強豪国と闘うためにはSC(ストレングス&コンディショニング)の強化は避けて通れず、同時にメディカルスタッフに求められる役割も大きく変化している。ラグビーワールドカップ2015は、エディージョーンズ監督のもと、選手・スタッフが4年間のハードワークを乗り越え、“歴史を変えるチャンスは一度しかない”と挑んだ集大成であった。歴史的快挙の陰には、メディカルスタッフにとっても様々な葛藤と挑戦があった。競技会をサポートするメディカルスタッフへの要求として、救急対応を含め20時間程度の講習が義務付けられるようになってきている。また、4時間以内なら脊髄損傷の回復の可能性があることから、搬送などの環境作りも重要視されている。エディージョーンズ率いる日本代表チームのメディカルスタッフは、選手にGPSをつけて走行距離を測定するなど疲労度合いをモニタリングすることで情報の共有化を図ったり、故障者に他のスポーツを行わせるなど様々なスポーツ理論を検討した。メディカルチームとして3年間、スタッフをまとめた高澤先生は講演などでは喋り尽せない苦労が伺える。しかし、歴史的瞬間に立ち会えたことで全てが報われたのではないでしょうか。

2015.09.19. 34-32で南アフリカに勝利

「勝てない言い訳を探し出すよりも、winning advantage(勝利につながる長所)を見つけるべき」エディージョーンズ

(要約 松田真弥)

大阪府臨床麻酔科医会 抄録


演題:神経障害性疼痛の治療戦略を共に考えよう!
順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座 教授 井関 雅子先生

 本邦では2010年に、0~69歳の2万名を対象として、Numeric rating scaleで4 以上の痛みが週2 回以上かつ3 カ月以上継続しているものを慢性疼痛保有者として抽出するための疫学調査が行われた。その結果、慢性疼痛保有率は26.4%であった。日本語版神経障害性疼痛スクリーニング質問票から得られた神経障害性疼痛保有者は、全体の6.4%可能性が高いに該当した。
 また、2010 年に19198名を対象として行われた運動器慢性疼痛の調査では、
持続期間6 カ月以上の有痛者660 名に対して、Pain Detectを用いて神経障害性疼痛に関する再調査が行われ、神経障害性疼痛の可能性が高いものは7%,要素が含まれるものが13%であり、痛みは神経障害性疼痛の要因が大きいほど強かった。さらに、複数の調査の共通の結果として、神経障害性疼痛の可能性が高いほうが、活動や情緒などすべての面で生活の質が低下していた。
 神経障害性疼痛の中には、様々な疾患が含まれており、さらに混合性疼痛とされている運動器疼痛を加えると、病態は大きく異なる。そのため、日本ペインクリニック学会では、新たに「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版」を作成し、各疾患に対する薬物療法を解説している。しかし特定の疾患では、どの薬剤の治療効果も乏しい現状が浮き彫りにされており、今後の課題と考える。また、疾患によっては、侵害受容や神経炎症性疼痛から、神経障害性疼痛へと移行していくものもあり、ペインクリニシャンがインターベンショナル治療も併用しながら、疼痛緩和を経時的に行うことが有用な場合も多い。薬物療法に加えて、さまざまな方法を駆使して、神経障害性疼痛の治療戦略を共に考えたい。

第49回日本ペインクリニック学会


共催シンポジウム 1                                               第 9 会場  7 月 24 日(金)14:30∼15:30
 
共催:大阪府臨床麻酔科医会
 
麻酔医・ペインクリニシャンだからこその開業形態
座長:久保田泰弘(えびす診療所)
酒井雅人(さかいペインクリニック)
座長のことば
森本会長から麻酔科開業医でのシンポジウムを企画したいと,われわれが所属する大阪府臨床麻酔 科医会に打診がありました.大阪府臨床麻酔科医会とは大阪の麻酔科出身の開業医の集まりで,大阪 府医師会の第 12 番目の専門医会として昭和  57 年に発足しました.このような歴史ある会ですので, いろいろな開業形態の医師が所属しています.
そこで今回は麻酔科出身でなければできないような開業形態をされている先生方でシンポジウムを 開催し,多くの若い麻酔科医に将来の一つの選択肢を提示したいと考えました.過去のペインクリニ ック学会での開業医のセッションといえば,開業の理由や開業のノウハウ,開業医と勤務医との違 い,開業医の苦労話などが多く,特に麻酔科出身の開業医でなくとも同窓の開業医と話せば分かると いう内容でした.今回は,そのような話題ではなく,ブロック,在宅,出張麻酔に特化した麻酔科ならではのクリニックの紹介で,その設立ポリシーや将来性などを大いに語っていただきます.
以前の麻酔科開業医の多くは家業のクリニックを継承し,内科,小児科,外科などの標榜が一般的 であり,総合医のような,まさにかかりつけ医というような開業形態が主だった印象がありま す.しかし,近年は各科の開業医も耳鼻科,眼科など同じようにスペシャリティーを前面に掲げる医 院が増加しています.たとえば内科では糖尿病センターや内視鏡センター,外科ならブレストクリニ ック,整形外科なら人工関節クリニックというようなものです.
麻酔科は守備範囲が広いため,総合診療医のような開業も特に問題なくこなせると思いますが,今 回は麻酔科出身でしかできないような開業形態ということで 3つのクリニックの先生方に講演してい ただきます.いずれも大阪の麻酔科開業医の中のフロントランナーの先生方です.今後ますます厳しくなる医療行政の中で麻酔科であるアドバンテージを生かした開業形態を紹介したいと考えます.ど の先生も麻酔科サブスペシャリティーの開業分野では究極の形態であり,これを参考にいろいろな割 合で各分野(ブロック,在宅,出張麻酔)のエッセンスを  MIX していく開業形態も考えられます. 必ず将来の参考となる貴重な講演でありますので是非聴講ください.
 
 
 
 
1)ペインクリニックの開業形態―ブロック治療を前面に―
 
山上裕章
ヤマトペインクリニック
 
 
当院は疼痛疾患に対する神経ブロック療法を前面に打ち出しており,X 線透視下神経ブロックお よび超音波ガイド下神経ブロックが可能である.ただ,医師 1 人なので診療できる人数に限界があり 完全予約制としている.

 
一般に,神経ブロックは延々と行うものではなく,一定期間で終了すべきものである.したがって高度な神経ブロックを施行する医療は,地域医療というよりも特殊専門医療と言える.実際,他院か らの紹介患者や他府県からの受診患者が多いのが特徴である.当院のスタッフは,医師(院長)1 名,レントゲン技師 1 名,看護師 4 名,事務 3 名(シフト制で 2 人が勤務)である.診察は,火曜∼ 土曜 9∼13  時および火水土の 15∼18 時に行っている.処置室には処置用ベッド 14 台(電動ベッドは
13 台)を配置し,X 線透視下神経ブロックには  C アーム透視装置を用いている.過去 3 年間の統計 では,初診患者数は 600∼700  人/年,再診患者数は約 6,100 人/年であった.初診患者の内訳は,脊 椎疾患が 70% 前後で,帯状疱疹関連痛  10-14%,関節疾患 10%,三叉神経痛 3% であった.X 線透視 下神経ブロックは,他の神経ブロックと同様に診察後に施行する.
当院は予約制なので件数を調整することが可能であり,午前診療で 10∼18  件,午後診療で 6∼10 件くらいに制限している.この件数ならば午前のスタッフは  14 時までに帰宅でき,午後のスタッフ も 19 時までに帰宅可能である.1  週間の X 線透視下神経ブロック件数は  80∼90 件であり,来院患 者の約 70% が X 線透視下神経ブロックを受けている.X 線透視下神経ブロックを行う場合,ほとん どの症例で静脈確保し,不測の事態に備えている.これは私の信念であり,マンパワー不足の施設で 静脈確保は必須と考えている.X 線透視下神経ブロック後  30 分間は血圧測定,声かけを行い,問題 なければ 30∼90  分後に帰宅させている.腰仙部の神経ブロックでは下肢に力が入ることを確認して 帰宅させる.三叉神経末梢枝の高周波熱凝固や膝・肩・股関節の造影・パンピングでは 30 分の経過 観察を行う.超音波ガイド下神経ブロックは主に三叉神経末梢枝ブロックや関節ブロックに用いる. 前勤務先の病院を後方病院とし,週 1 回出向し入院を要するような神経ブロックや手術も行ってい る.治療内容は,ガッセル神経節ブロック,経皮的髄核摘出術(頸部∼腰部),硬膜外脊髄刺激,腰 部交感神経節エタノールブロック(胸部,腰部),神経根高周波熱凝固(複数カ所のパルス高周波法) などで,年間 60∼70  件である.無床診療所では不測の事態への対応を準備しつつも,神経ブロック の合併症による緊急入院は避けなければならない.

 
 
 
 
2)外来と在宅医療のミックス型診療所として在宅緩和医療に取り組んで
 
出水    明 医療法人出水クリニック
 
20 数年前病院の麻酔科で働いていたときに,内科から原発不明がんの腕神経叢浸潤での痛みを訴 える患者の疼痛緩和を依頼された.病状告知をされていない患者は,ADL は悪くなかったが痛みが 取り切れないことを理由に自宅に帰ろうとしなかった.本人に病状を告知して,今後の過ごし方を検討すべきではないかと主治医に話してみたが,それが当時の主流ではあったが,治る見込みがない状 況での告知には否定的意見だった.緩和ケアの目的は残された時間の QOL を改善することであり, 痛みの緩和はその手段の一つであり,目的ではない.QOL の改善のためには主治医としてかかわり, 病状告知を含めた患者家族との話合いが必要だと感じた.
その後,民間病院の病棟での緩和ケアをする中で,家に帰りたいという患者に出会った.在宅医療 の体制はない中で,夕方からボランティアで看護師達と患者宅に出かけ,初めて在宅で診るということを経験した.数カ月後この患者を家で看取ることになったが,病院という環境と関係なく在宅医療 は可能だと学んだ.家で過ごしたいと願うがん患者を家で支える仕事をしようと思い,開業を

った.1996 年 4 月のことであり,日本にまだ在宅専門のクリニックはなく,外来と在宅の仕事を半々で行えればいいと考えていた. 病院での在宅ケアの経験から,在宅ケアを行うには訪問看護師の力が必須だと感じていた.開業当初 2 人の看護師からスタートした当院には現在 8 人の訪問看護師がいる.19 年間に在宅導入した患 者は 850 人あまりになり,うちがん患者が 500 人,自宅での看取りは 480 人を超えた.ほとんどの患 者は地域の病院・診療所や介護関係者から紹介であるが,10%  あまりは自院の外来からの在宅患者 であり,外来からの円滑な在宅導入が可能である.また外来通院での緩和ケアや,在宅患者遺族の長 期の外来フォローも少なくない.当初,外来のほうが保険請求の多い時期もあったが,最近は在宅で の保険請求が 2/3 になっている.看取りや医療依存度の高い患者への在宅医療には 24 時間 365 日の 対応が必要である.基本  1 人常勤医の診療所で外来診療もしながら継続して来られたのは,「24  時間 対応は訪問看護師との連携で」「365  日対応は地域の診療所間連携で」というコンセプトの実践によ る.当院では自院からの訪問看護と岸和田在宅ケア 24 という地域診診連携グループで対応している. 地域の在宅医療ニーズは,末期がんの緩和ケア,神経難病,臓器不全を伴う高齢者,認知症高齢 者,小児など多岐にわたる.在宅患者にはがん性疼痛をはじめ,神経障害や筋骨格系疾患,不動化, さらには心の痛みまでさまざまな痛みが存在する.また緩和ケアは WHO  の定義にもあるようにが ん患者に限るものではない.今後の高齢社会,多死社会の中で,さまざまな疾患での end of life care が重要な課題となる.ペインクリニック医は心の痛みまで含めた多くの痛みへの対応の専門家であ り,オピオイドを含めた多種の薬剤を扱うことができる.ペインクリニック医の開業形態として,地 域での一般的疾患のかかりつけ医+疼痛性疾患の専門医+在宅医という機能を提供することへのニーズは高いと考えている.
 
3)麻酔科開業と出張麻酔業務のコンビネーション
 
二永英男 二永麻酔科クリニック
 
 
麻酔科医の役割は,日本麻酔学会 HP で,一般の方向けには,【手術中の麻酔管理】【周術期管理】
【集中治療】【緩和医療】【痛みに苦しんでおられる方へ】で,果たすべき社会的役割を説明していま す.麻酔科開業医では,麻酔科医としての社会的役割を果たしつつ,地域医療に寄与することが大切 であると考えています.今回,地域医療と出張麻酔のコンビネーションとしての麻酔科開業の一形態 をご報告させていただきます.当院は平成 16 年 10 月に出張麻酔専門の開業医として,大阪府東大阪 市で,麻酔科単独の標榜で開院し,平成 25 年 10 月からペインクリニック内科を併設し,以来地域医 療にかかわっています.午前中は外来業務,午後からは出張麻酔で,終日定期的な出張麻酔業務に充 てる日も週 1 日存在します.出張麻酔業務は,原則,定期的な麻酔業務のほか,適宜依頼の麻酔業 務,昼夜土日にかかわらず可能な範囲内での緊急麻酔業務やオンコールなど,契約病院・契約クリニ ックに対応しています.過去約 10 年に経験した症例数は年平均約 500 件,産科・婦人科約 45%,整 形外科約 30%,外科・脳神経外科・泌尿器科・耳鼻咽喉科・その他等約  25% です.麻酔法は全身麻 酔(TIVA)+脊・硬麻が約 60%,全身麻酔(吸入ガス)+脊・硬麻は約 20%,全身麻酔・脊・硬麻 各単独は約 15%,静脈麻酔・伝達麻酔・その他  5% でした.活動範囲は,地元東大阪市内を中心に, 時には遠方にも赴くこともあります.2015  年 1 月,日本麻酔学会が実施した麻酔科医のマンパワーに関する調査によると,大学病院の 39%,一般病院の 59% が外部から麻酔科医を定期的に要請していることが分かりました.

派遣依頼先は半数近くが大学や関連医局で,麻酔科開業医や派遣業者に定 期的に依頼している大学も  15% あるそうです.手術室勤務の麻酔科医師不足は学会も認めざるを得 ない状況です.昨今,手術室勤務の麻酔科医師不足を解消の一助として,歯科医師の麻酔業務や手術 室の麻酔看護師,臨床工学士の麻酔助手など議論に挙げられ,すでに実施している施設もあるそうで す.出張麻酔における麻酔業務で,診療報酬請求を行うためには,まず医療法第 8 条(診療所開設の 届)に定める診療所を有することが必要です.術前診察,術中管理,術後診察を患者,患者家族と対 面で診察や説明,インフォームドコンセントを得ること,主治医との共同業務として麻酔を行うこと 等が大切です.出張麻酔開業医に求められる姿は,医師と患者間における善良なる管理者の注意義務(善管注意義務)実行はもちろんのこと,社会通念上麻酔科専門医としての役割を果たすことも大切 です.いわゆる,かけ捨て麻酔との区別化は重要です.手術後(麻酔後)患者・家族からの受けた医療行為への感謝の気持ちは,主治医(執刀医)や病院へ向けられることが肝要と考えています. 結果,主治医(執刀医)や病院からの出張麻酔科医への高い評価につながると確信しています.午前 中の外来通院患者の慢性疼痛やがん性疼痛の管理などを含めた内科的な診療と手術麻酔業務が,地域 医療と出張麻酔のコンビネーションとして,麻酔科医の職能の向上に寄与しているものと確信しています.






第33回 春季学術講演会

「社保審査の現況」抄録
保険診療はルールに基づいての診療であり、審査はそのルールが守られているかを判断しております。ルールは「保険医療機関及び保険医療療養担当規則(療担規則)」、「医科点数表(の解釈)」に示されています。特に、ここ数年前から保険者のレセプトチェックは厳しくなっており、その範囲は高点数の項目に限らず低点数の項目にまで及んでおります。ペインクリニックで特に関心が高いと思われる「神経ブロックが適応となる症例」に関しての支払基金の基本的スタンスは、神経ブロックは急性期が適応であり、慢性期は注射治療(トリガーポイント注射など)が主になる、というもので、これは保険者との合意事項でもあります。慢性期に神経ブロックが必要な場合は、その必要性に関する症状詳記が必須です。症状詳記を活用して、保険者に説明、説得できるレセプトの作成をお願いいたします。





第33回春期学術講演会 特別講演
「痛みをめぐる冒険」
大阪大学麻酔科学教室臨床教授 
西宮市立中央病院麻酔科・ペインクリニック科 第一部長 
前田 倫 先生
 
抄録
国際疼痛学会の定義にあるように、痛みは主観的な「感覚」と「情動」の体験である。感覚体験は、外傷・周術期など器質的な組織損傷から第3者からも理解されやすいが、情動体験は、不安・焦燥・喜怒哀楽といった感情と同様、完全な主観的体験であり、ヒトの場合、数値化も含め客観的な評価が困難である。このことが、痛み、特に慢性痛の治療を難しくしている。
従来、末梢からの中枢への痛み刺激経路(Bottom Up)は、①内側系(旧脊髄視床路)が情動系に、②外側系(新脊髄視床路)が感覚系に関与するとされてきたが、③橋腕傍核から、情動に関与する扁桃核への第3の経路の関与が明らかになりつつある。
また、中枢から末梢への痛み抑制系(Top Down)として、大縫線核(セロトニン系)や青斑核(ノルアドレナリン系)から脊髄後角へ投射される下行性抑制系も知られている。
生理的条件下では、ヒトはBottom Up/Top Downの両系のホメオスタシスを維持しているため急性痛が慢性痛に移行しないと考えれば、中枢・末梢での難治性慢性痛はBottop Up/Top Downのホメオスタシスの破綻の結果、生じると推論される。
本講演では、最近の機能的脳機能画像研究の知見に基づき、大脳皮質間の機能的結合が、下行性抑制系の上位中枢として機能すること、また、Reverse Pharmacologyにより視床に発見された Orexinが、情動に関与する側坐核や扁桃体に作用することから、Pain Matrix(帯状回・視床・島等)に関与する事実を示し、慢性痛の新たな治療法の可能性を探る。
 
 
難治性慢性疼痛の発症に関する興味深い最近の知見を教えていただいた。機能的脳画像評価の発展にともない、大脳皮質間の機能的結合という概念が画像として捉えられるようになって来ている。オレキシン欠損はナルコレプシーを引き起こすが、オレキシンは扁桃体など情動に関与する部位にも作用していることがわかってきており、睡眠障害治療薬としてすでに使用されているオレキシン受容体拮抗薬が慢性痛を修飾する可能性もあるとのことだった。
 
 前田先生は第34次南極越冬隊に参加され南極でのフィールドワークをされたり、JICAプロジェクトの専門家としてボスニア・ヘルツェゴビナでの対人の地雷被災者疼痛治療にも参加されており、この活動により2012年の日本麻酔科学会の社会賞を受賞されている。まさに「痛みをめぐる冒険」をされている医師である。
(文責 出水 明)
 
 


被災地での痛み治療から学んだペインクリニックの役割

仙台ペインクリニック石巻分院 院長 川井康嗣
 
東日本大震災から4年が経ち、津波被害のあった石巻も災害復興住宅の完成や交通網の復旧など徐々に復興が進んできている様である。地域のインフラ復旧に比べ、被災者の生活をしていく上での日常や気持ちは簡単には戻したり進めたりする事ができず、特に高齢者にとっての生活圏の喪失は、20年前の阪神大震災4年前も非常に難しい問題である。そんな中で、川井先生はペインクリニシャンの視点から現況を報告された。なかでも生活不活発病生活が不活発になることで全身の機能低下をおこす状態であるが、要は「することがなくなる」ことが原因である。地震などの災害で避難所暮らし、仮設暮らしにより体を動かすことが少なくなる、地域でのコミュニティがなくなる、ボランティアに遠慮してしまうこういったことが原因となり動かなくなる→生活が不活発になる→体が動けなくなる、と言った悪循環を繰り返すことで身体的、精神的機能が低下する。神経ブロック療法と内服加療は有効であるが、重要なのは社会への参加を促すことで生活動作を改善し心身機能を回復させることで、実例を用いて説明された。
薬物療法では外来でよく処方している薬について簡潔に要点を述べられた。アセトアミノフェン(以下APAP)が下降性抑制系の活性に関与しており、高齢者の痛み治療のアルゴリズムに組み入れられている。海外ではAPAPのOTC等による大量服用もあり肝障害が報告されているが、日本ではそれほど多くはない。200mgのAPAPを9T/日で処方することで差別化を図っている。ケトプロフェンの貼付薬は光アレルギー性皮膚炎を起こすため、海外では使用されていない。日焼け止めクリームでかぶれる人はケトプロフェンで皮膚障害を起こす可能性が高い。デュロキセチンはAPAPと組み合わせて処方することが多く、服用は夕食後にしている。副作用としてそう転、EDがみられる。トラマドールは、飲酒、肥満、喫煙、男性の条件を満たす人に効果的である。ノルスパンテープ高齢者には膝から始め貼付部位を上げていくと安全である。ロゼレムは食後投与だと血中濃度が低下することがあり眠前投与だと立ち上がりが悪いため、服用時間に工夫が必要である。
以上、被災地での医療の問題点、現在実践している薬物療法に対して時間の許す限り講演して頂きました。震災後のスライドは、私自身が経験した約20年前の阪神大震災を思い出させ、災害医療の難しさを再認識させられました。薬物療法は、画一的になりがちですが理論に基づいて工夫をされており、参考にできるところが随分あったかと思われます。






平成27年10月10日(土)に第3回大阪府臨床麻酔科医会で、ジャーナリストの堤未果氏を招いて、「沈みゆく大国アメリカ~逃げ切れ日本の医療~」と題して講演して頂いた。日本国内に居るとアメリカに対するイメージは「アメリカンドリーム」「チャンスの国」「自由と民主主義の国」と思ってしまうが、堤未果の話を聞いているとイメージと全く違う。医療分野について、アメリカの人口3億人内4千万人以上がいまも無保険者医療を受ける場合は全額自己負担であり、それもべら棒に高額である。例えば、盲腸で一週間入院すればすぐに700万円、骨折すれば300万円はかかる。残り保険者はそれぞれの民間保険に加入しているが、保険料の額によって受けれる医療異なり、日本の様に医師に治療法を選ぶ主権はない。患者は例え保険に加入していても医療費自体が高額で、更に免責額(例えば50万円をまず支払う)がある上に、保険会社は色々難癖をつけて支払いをしぶるケースが非常に多い(某有名がん保険の日本支社もその支払い率の悪さが問題になり、金融庁まで介入した報道がされたが、アメリカでは珍しくない)。その結果、毎年90万人(うち保険加入者は75%)医療破産するという。日本では医療は福祉であるが、アメリカでは医療はビジネスそのものであり、「値札のついた商品」であという医療で金儲けして何が悪いという風潮が一般的なのである。あるインタビューでエイズの会社を買収した直後にその薬を50倍に値上げした青年CEOに「なぜあなたはそんなに薬の値を上げるのか?」と尋ねると「Because I can」という返事が返ってきた。オバマ大統領はアメリカで初めての黒人大統領で国民から期待されたが実際はグローバル企業群やウォール街投資家たちの意向にそった政策を加速させている。何故なら大統領選挙ではスポンサーが共和党・民主党の両陣営に多額の選挙資金を献金しておりどちらが当選しても、当選後自分の業界に有利になる、“回転ドア”という利益誘導する仕組みが出来上がっているからだ。中でも医産複合体は絶大な勢力を持っており、国民の福祉が豊かになるような医療制度には決してならない。今度のTPP交渉で、日本政府および大手マスコミは農業と製造業の関税ばかり報道するが、TPPの主目的が「非関税障壁の撤廃」である事、「日本医療の自由化」はアメリカ側の数十年越しの要求である事を忘れてはならない。政府は「皆保険制度」はTPP交渉外だから問題ないと説明しているが、米国は世論の反発が大きいだろう「皆保険制度」自体はターゲットにせず、TPP後は薬価や医療機器、保険支払い率などあらゆる「非関税障壁」の側面から介入する算段だ。その結果、「皆保険制度」自体は残るが、医療費は高騰し,患者の自己負担はあがり、治療方法が医師でなく保険会社のプランによって決まるアメリカ型になってゆくだろう。だがTPPは最終合意の後に、まだ国会承認という最後の手続きがあり、そういう意味では日本の医療は今まさに岐路に立っている。私達日本人に取っては空気のようにあたりまえになってしまっている国民皆保険制度が、何故「成功した社会保障モデル」として世界から賞賛されるのかその意味を改めて考え直し、一部のグローバル企業群や投資家達ではなく私たち日本国民自身の手で、この国の医療の未来を選ばなければならないと、締めくくった私たち医師は患者と共によく考え、今後その罠に騙されないようにしなければならないと痛感した







被災地での痛み治療から学んだペインクリニックの役割

仙台ペインクリニック石巻分院 院長 川井康嗣
 
東日本大震災から4年が経ち、津波被害のあった石巻も災害復興住宅の完成や交通網の復旧など徐々に復興が進んできている様である。地域のインフラ復旧に比べ、被災者の生活をしていく上での日常や気持ちは簡単には戻したり進めたりする事ができず、特に高齢者にとっての生活圏の喪失は、20年前の阪神大震災4年前も非常に難しい問題である。そんな中で、川井先生はペインクリニシャンの視点から現況を報告された。なかでも生活不活発病生活が不活発になることで全身の機能低下をおこす状態であるが、要は「することがなくなる」ことが原因である。地震などの災害で避難所暮らし、仮設暮らしにより体を動かすことが少なくなる、地域でのコミュニティがなくなる、ボランティアに遠慮してしまうこういったことが原因となり動かなくなる→生活が不活発になる→体が動けなくなる、と言った悪循環を繰り返すことで身体的、精神的機能が低下する。神経ブロック療法と内服加療は有効であるが、重要なのは社会への参加を促すことで生活動作を改善し心身機能を回復させることで、実例を用いて説明された。
薬物療法では外来でよく処方している薬について簡潔に要点を述べられた。アセトアミノフェン(以下APAP)が下降性抑制系の活性に関与しており、高齢者の痛み治療のアルゴリズムに組み入れられている。海外ではAPAPのOTC等による大量服用もあり肝障害が報告されているが、日本ではそれほど多くはない。200mgのAPAPを9T/日で処方することで差別化を図っている。ケトプロフェンの貼付薬は光アレルギー性皮膚炎を起こすため、海外では使用されていない。日焼け止めクリームでかぶれる人はケトプロフェンで皮膚障害を起こす可能性が高い。デュロキセチンはAPAPと組み合わせて処方することが多く、服用は夕食後にしている。副作用としてそう転、EDがみられる。トラマドールは、飲酒、肥満、喫煙、男性の条件を満たす人に効果的である。ノルスパンテープ高齢者には膝から始め貼付部位を上げていくと安全である。ロゼレムは食後投与だと血中濃度が低下することがあり眠前投与だと立ち上がりが悪いため、服用時間に工夫が必要である。
以上、被災地での医療の問題点、現在実践している薬物療法に対して時間の許す限り講演して頂きました。震災後のスライドは、私自身が経験した約20年前の阪神大震災を思い出させ、災害医療の難しさを再認識させられました。薬物療法は、画一的になりがちですが理論に基づいて工夫をされており、参考にできるところが随分あったかと思われます。平成27年10月10日(土)に第3
回大阪府臨床麻酔科医会で、ジャーナリストの堤未果氏を招いて、「沈みゆく大国アメリカ~逃げ切れ日本の医療~」と題して講演して頂いた。日本国内に居るとアメリカに対するイメージは「アメリカンドリーム」「チャンスの国」「自由と民主主義の国」と思ってしまうが、堤未果の話を聞いているとイメージと全く違う。医療分野について、アメリカの人口3億人内4千万人以上がいまも無保険者医療を受ける場合は全額自己負担であり、それもべら棒に高額である。例えば、盲腸で一週間入院すればすぐに700万円、骨折すれば300万円はかかる。残り保険者はそれぞれの民間保険に加入しているが、保険料の額によって受けれる医療異なり、日本の様に医師に治療法を選ぶ主権はない。患者は例え保険に加入していても医療費自体が高額で、更に免責額(例えば50万円をまず支払う)がある上に、保険会社は色々難癖をつけて支払いをしぶるケースが非常に多い(某有名がん保険の日本支社もその支払い率の悪さが問題になり、金融庁まで介入した報道がされたが、アメリカでは珍しくない)。その結果、毎年90万人(うち保険加入者は75%)医療破産するという。日本では医療は福祉であるが、アメリカでは医療はビジネスそのものであり、「値札のついた商品」であという医療で金儲けして何が悪いという風潮が一般的なのである。あるインタビューでエイズの会社を買収した直後にその薬を50倍に値上げした青年CEOに「なぜあなたはそんなに薬の値を上げるのか?」と尋ねると「Because I can」という返事が返ってきた。オバマ大統領はアメリカで初めての黒人大統領で国民から期待されたが実際はグローバル企業群やウォール街投資家たちの意向にそった政策を加速させている。何故なら大統領選挙ではスポンサーが共和党・民主党の両陣営に多額の選挙資金を献金しておりどちらが当選しても、当選後自分の業界に有利になる、“回転ドア”という利益誘導する仕組みが出来上がっているからだ。中でも医産複合体は絶大な勢力を持っており、国民の福祉が豊かになるような医療制度には決してならない。今度のTPP交渉で、日本政府および大手マスコミは農業と製造業の関税ばかり報道するが、TPPの主目的が「非関税障壁の撤廃」である事、「日本医療の自由化」はアメリカ側の数十年越しの要求である事を忘れてはならない。政府は「皆保険制度」はTPP交渉外だから問題ないと説明しているが、米国は世論の反発が大きいだろう「皆保険制度」自体はターゲットにせず、TPP後は薬価や医療機器、保険支払い率などあらゆる「非関税障壁」の側面から介入する算段だ。その結果、「皆保険制度」自体は残るが、医療費は高騰し,患者の自己負担はあがり、治療方法が医師でなく保険会社のプランによって決まるアメリカ型になってゆくだろう。だがTPPは最終合意の後に、まだ国会承認という最後の手続きがあり、そういう意味では日本の医療は今まさに岐路に立っている。私達日本人に取っては空気のようにあたりまえになってしまっている国民皆保険制度が、何故「成功した社会保障モデル」として世界から賞賛されるのかその意味を改めて考え直し、一部のグローバル企業群や投資家達ではなく私たち日本国民自身の手で、この国の医療の未来を選ばなければならないと、締めくくった私たち医師は患者と共によく考え、今後その罠に騙されないようにしなければならないと痛感した

被災地での痛み治療から学んだペインクリニックの役割

仙台ペインクリニック石巻分院 院長 川井康嗣
 
東日本大震災から4年が経ち、津波被害のあった石巻も災害復興住宅の完成や交通網の復旧など徐々に復興が進んできている様である。地域のインフラ復旧に比べ、被災者の生活をしていく上での日常や気持ちは簡単には戻したり進めたりする事ができず、特に高齢者にとっての生活圏の喪失は、20年前の阪神大震災も4年前も非常に難しい問題である。そんな中で、川井先生はペインクリニシャンの視点から現況を報告された。なかでも生活不活発病は、生活が不活発になることで全身の機能低下をおこす状態であるが、要は「することがなくなる」ことが原因である。地震などの災害で避難所暮らし、仮設暮らしにより体を動かすことが少なくなる、地域でのコミュニティがなくなる、ボランティアに遠慮してしまう。こういったことが原因となり動かなくなる→生活が不活発になる→体が動けなくなる、と言った悪循環を繰り返すことで身体的、精神的機能が低下する。神経ブロック療法と内服加療は有効であるが、重要なのは社会への参加を促すことで生活動作を改善し心身機能を回復させることで、実例を用いて説明された。
薬物療法では外来でよく処方している薬について簡潔に要点を述べられた。アセトアミノフェン(以下APAP)が下降性抑制系の活性に関与しており、高齢者の痛み治療のアルゴリズムに組み入れられている。海外ではAPAPのOTC等による大量服用もあり肝障害が報告されているが、日本ではそれほど多くはない。200mgのAPAPを9T/日で処方することで差別化を図っている。ケトプロフェンの貼付薬は光アレルギー性皮膚炎を起こすため、海外では使用されていない。日焼け止めクリームでかぶれる人はケトプロフェンで皮膚障害を起こす可能性が高い。デュロキセチンはAPAPと組み合わせて処方することが多く、服用は夕食後にしている。副作用としてそう転、EDがみられる。トラマドールは、飲酒、肥満、喫煙、男性の条件を満たす人に効果的である。ノルスパンテープは高齢者には膝から始め貼付部位を上げていくと安全である。ロゼレムは食後投与だと血中濃度が低下することがあり眠前投与だと立ち上がりが悪いため、服用時間に工夫が必要である。
以上、被災地での医療の問題点、現在実践している薬物療法に対して時間の許す限り講演して頂きました。震災後のスライドは、私自身が経験した約20年前の阪神大震災を思い出させ、災害医療の難しさを再認識させられました。薬物療法は、画一的になりがちですが理論に基づいて工夫をされており、参考にできるところが随分あったかと思われます。





議事録

第31回秋季学術講演会 学術講演抄録
今回の学術講演は、医療法人 出水クリニックの院長であります出水明先生に、「ミックス型診療所で展開する在宅医療」という演題で御講演をしていただいた。

ミックス型診療所というあまり聞きなれない言葉だが、内科・ペインクリニックの外来診療と同様に在宅ケアも行う診療所であり、出水先生は1996年の開業当初から在宅医療にご尽力されてこられた。
『日本の将来推計人口において、少子高齢化により、2055年には65歳以上の老年人口が40%をこえる。年間死亡数も2035年には現在の1.4倍になると予測されている。
現在、年間126万人が死亡しているが、癌、心疾患、脳卒中がその原因の50%以上を占めている。
余命が限られているときにどこで過ごしたいかという質問に、80%の人が自宅で過ごしたいと答えている。
しかし6割の人が実際は難しいと考えている。
自宅以外で療養したいと答えた人においても、その理由は家族の負担が大きく、迷惑をかけるというものが大半を占めていた。
昭和50年に約半数の人が家で亡くなられていたのに対し、現在家で亡くなられる人は十数%であり、大半の人が病院で最後を迎えている。
各国と比較しても日本は病院死の比率は突出している。
在宅医療、在宅ケアとは、入院治療では改善が望めない病気や障害を持ち、通院困難になった時に、人生の残された貴重な時間を住み慣れた家 (地域) で過ごしたいという患者及び家族の要望を尊重して、医療・介護面からサポートすることである。
障害が残り、あるいは余命を宣告された場合、今できることは何なのかを求めることが大事であり、そしてそれに一番適した場所が住み慣れた自宅であり、自宅で過ごす魅力は非常に大きい。
家での生活を支えるために在宅医療があるが、居宅だけでは完結しないことも多く、他施設間他職種の連携が必要となってくる。
在宅医としての役割は、定期的な訪問診療と臨時の必要に応じた往診を組み合わせ、訪問看護との密接な関係をもとに、24時間365日の対応で、通院困難な患者のかかりつけ医となることである。』
以上のように前半は在宅医療の現状と必要性について講演された。

後半は出水クリニックでの実際の活動を紹介された。
スタッフは常勤医1名、非常勤医1名、常勤看護師 (うち5名はケアマネージャー兼務) で外来診療と訪問診療、訪問看護を担当されている。
1996年以降、在宅導入患者数は644人で、死亡466人に対し、在宅死は70%以上の341人に及んでいる。
かなりの人を在宅で看取られたことになる。
在宅での疼痛管理を含めた医療行為や疾患別の特徴や、在宅ケアの普及のために、医療提供者に求められる24時間365日対応をどのように行なっておられるのか話された。

24時間対応に関しては自院内の訪問看護師との連携体制をとり、毎日朝と昼食時に在宅訪問記録をもとにカンファランスを持たれている。
もちろん訪問看護ステーションとの連携も充実されている。
岸和田在宅ケア24という取り組みについても話をされ、これは岸和田市で同じような在宅ケアを行っている7診療所 (当初4施設) で連携をとり、365日診療所間連携で対応するというシステムであった。
在宅ケア勉強会の開催や、その交流をもとに、地域でのネットワークを充実させることにも努力されており、その功績により岸和田市は8年間で在宅死は3倍となり、もちろん大阪府自治体別癌在宅死割合でトップになっている。
地域診療所間連携により、医師不在時の待機を依頼することも可能となり、自身の外出や休暇も取れるようになったと言われたが、とはいえ在宅での看取りの時間帯で72%は時間外であると聞くと、自分のOffの時間を犠牲にする部分も多いのではと考えてしまう。
その後も実際の活動や経験談を話され、最後に出水医師は、
『家族のホームグラウンドは家庭であり、患者家族がそのホームグラウンドで過ごすことに役立ちたいと思う。
今後も在宅医療の普及のために麻酔科医を始め、さまざまなバックグラウンドを持つ医師が在宅医療に魅せられることを望む。』
と締めくくられた。
「社保審査の現状」抄録
はるなクリニック 春名 優樹
保険診療はルールに基づいての診療であり、審査はそのルールに適合しているかを判断している。ルールは「保険医療機関および保険医療養担当規則 (療担規則)」、「医科点数表 (の解釈)」に示されている。支払側 (保険者) に説明できるレセプトが必要で、そのためには症状詳記が重要になる。ペインクリニックで特に関心が高いと思われる「神経ブロックが容認される症例」に関しての支払基金の基本的スタンスは、神経ブロックは急性期が適応であり、慢性期は注射治療 (トリガーポイント注射など) が主になる、というものです。
慢性期に必要性に迫られて神経ブロックを施行する場合は、その必要性に関しての症状詳記が必須です。神経ブロックは特別な治療と認識していただき、特別な治療をする場合は詳記をお願いします。


「認知症と意識障害」 

      名古屋フォレストクリニック 院長 河野 和彦 先生

   河野先生は毎年、400人を越える認知症の患者を診察し、クリニックのホームページでは認知症ブログを書き続けるなど、認知症への理解を広める取り組みを積極的に展開しておられます。その方法論は河野メソードとよばれ、最新著書として今回「高野メソードで見る認知症診療」(日本医事新報社)を上梓されたばかりであります。今回、河野を講師に招き「認知症と意識障害」についてご講演いただいたので、その要約を以下に報告いたします。

 「認知症は10年で倍増する。」と考えていた厚労省は読み違いであり、認知症は急増しており、認知症爆発は明日にでも起こる。認知症はあなたの外来にも必ずいるはず。現在、75歳以上の5分の1が認知症と考えられる。判別するにはぜひ改訂長谷川式スケールの習得を推奨された。このスケールの盲点として、1)認知症を確定するカットオフポイントが無いこと。2)スコア1桁の患者は必ずしも重度ではないこと。3)スコアが低い認知症患者がいる点、を指摘された。具体的に、加齢と認知症の違いを買い物、料理、薬、怒る、排尿行為等の例を出しこういう言い方ならわかるでしょと解説された。ここまでが一般論であり、今回の講演のテーマの一つとして、まず認知症の概要を話された。大前提として認知症学は未完成のため、役に立たない約束事があること。例えば、「意識障害のある時に認知症と確定してはなぬ。」に対して、「現実には、1部の認知症はせん妄を合併している。」などの例をあげられ、新たな認知症学の構築が必要であることを強調された。また、注意事項として、内科疾患では、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、ビタミンB1欠乏症(ベルニッケコルサコフ症候群)など。脳外科疾患では、正常圧水頭症、硬膜下血腫などのtreatable dementiaのルールアウトが重要で、見落とすと裁判では負ける旨説明された。次に、認知症の分類を、変性性認知症と二次性認知症に分類し、前者では、アルツハイマー型認知症(ATD)、レビー小体型認知症( DLB)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、ピック病、意味性認知症があり、後者は主に脳血管性認知症(VD)が該当する。各認知症の症例提示がなされ、その特徴と診断手段なとが丁寧なスライドにより説明された。

 次に今回のテーマである、認知症と意識障害について講演された。意識障害とは、物事を正しく理解することや、周囲の刺激に対する適切な反応が損なわれている状態をさす。また、意識の構成は「清明度」、「広がり」、「質的」の3つの要素があり、「広がり」の低下(意識の狭窄)は、催眠、昏睡、半昏睡、昏迷、失神。 「質的」変化(意識変容)はせん妄やもうろう等を生じる。また、覚醒の座は、主座は脳幹網様体調節系にあるとされ、もうひとつ認知に関しては大脳皮質全体に存在すると言われている。意識障害の場合は、この一方ないし両方が損害されている。即ち、意識障害をみた場合は脳幹、大脳皮質、全身性疾患の3つを考えれば良い。 DLB に起きたせん妄例や、大脳皮質の例として、クロイツフェルト•ヤコブ病、全身疾患例として肝性脳症、大脳皮質と脳幹合併例として低活動性せん妄例のスライドが紹介された。ここで河野メソー

ドの考え方として、認知症を意識障害で二群に分けると、覚醒系認知症(ATD. FTLD)では抑肝散やニコリン注射への反応が無反応なのに対して、意識障害系認知症(クロイツフェルトヤコブ病、DLB、代謝•内分泌系認知症、脳血管性認知症)などは良好な反応を示す。このような観点から、具体的な症例が以下提示された。急激に悪化したATDへの対応として、1)新病変の検索、2)薬の副作用のチェック、3)診断の変更を掲げ、パーキンソン病(PD)の診断では、歯車様筋拘縮の具体的な調べ方、レビー小体型認知症 (DLB) の意識障害3態、各症例にニコリンを投与して劇的に改善したスライドが紹介された。なぜ DLB は劇的に改善するのかのスライドでは、DLB はATDと違い脳萎縮が軽いため、元々意識回復の実力を秘めていることが視覚的に示され、なるほどと納得させられた。意識障害を消すことがDLB治療のコツであるという河野メソードが披露された。結局、意識障害系認知症では中核症状や周辺症状に薬剤を投与する前に意識障害を覚醒させないと話にならないわけである。ここからは、ニコリン注射療法の実際の投与方法がスライドで紹介された。

 次に、河野メソードの治療論が紹介された。脳萎縮は絶望ではないこと、誤った考え方は、周辺症状は、中核症状から派生したものだから、中核症状を治せば、周辺症状も消えるはず(アリセプト単独処方)であり、河野メソードでは、陽性症状をまず抑制系で落ち着かせてから中核症状改善薬を投入する。そのためには、今まで投与されてきたアリセプトをウオッシュアウトすること、抑制系を投入することが大事で、アリセプトを急にやめても脳内に17日間残るため、悪性症候群は起きないことが強調された。また、河野メソードでは家族にどうして欲しいかを聞くことが大事で、その具体作として、配布された資料コミュニケーションシートの利用を勧められた。ここからは河野メソードによる実際の症例がたくさんのスライドで提示された。その中から、アセチルコリンドーパミン天秤の概念やアリセプトとリスバダールをドパミン阻害ダブルバーガー称し、実際のハンバーガーをモチーフにしたスライドも提示された。また、健康補助食品として、NEWフェルガード(フェルラー酸+ガーデンアデリカ)の認知機能改善効果や、ルンベルクス•ルベルスの動脈硬化改善効果が紹介された。また、新薬紹介として、レミニール、メマリー、リバスタッチパッチに対する河野先生の評価が述べられた。最後に、1.一般医の認知症の参入は社会の強い要請、2.いわゆる専門医の医療レベルは、 惨憺たる状態である、3.薬物の種類、用量の規定は守るべからず、4.意識障害の解消なくして認知症治療は進まないことが、まとめのスライドで提示された。そして、名医への近道としてアリセプトを絞ること、ニコリン注射を多用することを掲げて、講演終了となった。以上、余りにも密度の濃い講演であったため、紙面では書ききれなかったが、詳しくは、河野先生の最新著書「高野メソードで見る認知症診療」(日本医事新報社)を一読されることをお薦めする。なお、この講演の感想を河野先生自身のブログ(http://dr-kono.blogzine.jp/ninchi/2012/10/)に掲載されておりますので、こ興味のある方は、このブログもご参照ください。

 (要約 浜 直)