第40回春季学術講演会

矢部充英先生抄録

オピオイドを使うときのPitfall~安全に使用するために
大阪市立大学大学院医学研究科  麻酔科学講座 講師
大阪市立大学医学部附属病院 麻酔科・ペインクリニック科
矢部充英 先生
オピオイド鎮痛薬は手術麻酔のみならず、日常臨床においてもその強力な鎮痛作用を活かして様々な場面で活用されている。
欧米に比べてその消費量が少ないと言われてきた本邦においても近年、慢性疼痛に対してオピオイド鎮痛薬の適応拡大が図られ、現在数種の強オピオイドが使用可能となっている。
また、がん患者においては、治療と診断の技術が進むにつれて治療成績が向上し、「がんサバイバー」が増え「がん性疼痛」の臨床経過が変化してきた。
オピオイド鎮痛薬は使い方によっては精神と行動の著しい変化、依存性や耐性を生ずる可能性があり、使用する際には十分な痛みの評価と適応について慎重に判断されるべきである。にもかかわらず、その不適切な使用により、離脱困難などの転帰をとるケースがしばしば見受けられることも事実である。
本講演会では私の経験した症例を提示しながらオピオイド鎮痛薬の適切な使用について理解を深め、共に議論できればと考えている。

林田賢治 先生抄録

肩関節拘縮と腱板断裂  ~長く続く肩の痛み~
第二大阪警察病院 副院長
整形外科 部長 林田賢治 先生
 
肩の痛みが長く続くと、夜間痛がおこり睡眠が妨げられたり、強い肩こりが起こるので頭痛や頸部痛が引き起こされやすい。その結果、気分不良、イライラ感、全身倦怠感が起こりやすくQOL低下を引き起こすことが多い。長く続く肩の痛みを起こす代表的な疾患として、肩関節拘縮、腱板断裂、変形性肩関節症、インピンジメント症候群があげられる。今回の講演では、4つの疾患を鑑別するための診察の勧め方を紹介し、保存的治療および外科的治療の実際を解説する。
鑑別するための理学所見として、まず可動域の評価がある。正常可動域を獲得するためには、1)関節構造が正常であること、2)関節を稼働するための筋力があること、3)軟部組織(筋や靭帯)の正常な長さがあること、が必要である。したがって可動域の異常を伴う場合は、上記に何らかの異常を起こしている可能性がある。可動域には自動可動域と他動(介助)可動域があり、この両者の評価が重要である。また、関節可動域は個体差が大きいので、左右の比較が診断上重要である。筋抵抗テストも重要な評価項目である。肩関節は骨組織による支持が少なく、関節安定性の多くを軟部組織(筋、靭帯)で行われている。筋抵抗テストはその中の筋肉の評価を行うもので、主に外転筋(棘上筋テスト)、外旋筋(棘下筋テスト)、内旋筋(内旋抵抗テスト、Napoleonテスト)の評価を行っている。上記の診察の組み合わせで、おおよその病変を予想する(表)。日常診療では、これら一連の診察は5分程度で終われるので、先生方の日々の診療に活かせていただければ幸いである。
この臨床診断をもとに検査を行うが、単純X線、MRIが肩関節では有用である。単純X線検査では、関節破壊の有無、肩峰の形態および骨棘形成、骨頭の移動等を評価する。MRIは非常に情報が多く、関節水腫(肩関節、肩鎖関節、肩峰下滑液包)の有無、腱の評価、筋委縮や脂肪変性の有無なども評価可能である。
肩関節疾患の治療の基本は保存的治療で、どの疾患でも、まず可動域訓練や薬物、注射療法を行い、除痛と可動域獲得する。その後に、筋力訓練等の機能訓練を行い機能回復と再発防止を目指す。しかし、筋断裂や関節破壊などの構造上の破綻を起こしている場合は、保存的治療の限界で、外科的治療の適応となる。

 
 

  可動域
制限
臥位で
改善
SSP
テスト
外旋
テスト
内旋
テスト
Napoleon
テスト
拘縮肩 あり なし 陽性 陰性 陰性 不可
腱板断裂 (~3cm) なし なし 陽性 陽性 陰性 陰性
腱板断裂 (3cm~) あり あり 陽性 陽性 SSC
大断裂
SSC断裂
肩OA あり なし 不定 不定 不定 不定
インピンジメント症候群 なし なし 陽性 陰性 陰性 陰性
 

第40回春季学術講演会

第40回総会・秋季学術講演会

「 医療分野へのAI応用とその未来 」
             大阪市立大学 健康科学イノベーションセンター 
             大阪市立大学大学院医学研究科
             放射線診断学・IVR学 人工知能研究室
             准教授 植田 大樹 先生
 
 
 2019年9月17日、医薬品医療機器総合機構 (PMDA)は、大阪市立大学大学院医学研究科放射線診断・IVR学教室で共同開発したmagnetic resonance angiography (MRA)からの脳動脈瘤補助診断プログラムを、ディープラーニングを用いた医療機器として日本で初めて医療機器承認した。まさに医療分野における人工知能 (artificial intelligence; AI) 時代の幕開けといえる。
 AIとは、大量の知識データに対して高度な推論を的確に行うことを目指したものである。その中でも特に当科で得意とする深層学習は自動で特徴を学んでいく。まず、これらAIの基本についてシュミレーションなどを通して概説する。その後、AIの技術をclassification (分類)、detection (検出)、segmentation (セグメンテーション)の3つの観点から説明する。
 当研究室ではAIの医療応用を率先して取り組んできた。その中から、近年注目を浴びる研究事例を紹介する。例えば、上述のMRAからの脳動脈瘤診断AIはもちろん、胸部レントゲン写真からの肺癌検出(こちらもPMDA承認取得済み)に関しての実際に一般内科医や放射線科医が使用前後の診断精度の変化についての研究を紹介する。その他にも、最近開発した、胸部レントゲン写真からの左室駆出率の推定AIや弁膜症を診断するAIなどを紹介する。最後に、医師とAIの認識の違いについて述べ、医療AI時代における医師の役割について考察する。 「 変形性関節症の痛みはどこからくるのか?
    ―軟骨下骨と軟骨老化・滑膜炎に対する新規ヒアルロン製剤の位置づけ― 」
          
     東京慈恵会医科大学 整形外科講座 主任教授 斎藤 充 先生
 
変形性関節症(OA)は, 個々の症例の X 線学的所見や症状は類似している.しかし, そこに至ったリスクは個々に多様である. 症例毎にきめ細やかなリスク評価を行い, 個別化治療を行う必要がある. 変形性関節症の病態解明や治療効果の判定に齧歯類を用いた関節不安定性 OA モデルがある. 優れたモデルであるが,  1 ) 組織老化の程度がヒトと異なる,  2 ) OA リスクの中でも「不安定性」という単一リスクのみで生じる病態を見ているに過ぎない. これは若年期に靱帯断裂や半月板損傷を煩い, 早期に OA を発症した患者さんの病態をみていることになる. 我々はこれまでに加齢に伴う酸化ストレスの亢進に伴う全身の基質蛋白の翻訳後修飾の変化が, 骨粗鬆症・動脈硬化因子・軟骨変性の連関を来たす可能性を指摘してきた. 長野コホートおよび当院の関節症例の組織生, 臨床調査から, 骨粗鬆症, 関節症の共通した危険因子として, 骨吸収の亢進, 骨, 軟骨のコラーゲンの過剰老化が抽出された. すでに大型動物, ヒトの軟骨や滑膜組織の分析から基質蛋白の老化が関節炎を誘導し,  OA のリスクとなることが示されている.  OA の痛みは, こうした滑膜炎に伴う炎症性疼痛や, 軟骨下骨の骨リモデリングの亢進 (破骨細胞性疼痛) に伴う疼痛があり, 両者の合併も当然ある. しかし患者さんは「膝の痛み」として訴えてくるため, 疼痛の由来に対する治療を行う事が除痛をえるためには重要となる. 滑膜炎に対して, ヒアルロン酸は軟骨保護作用, 潤滑作用, そしてマイルドな軟骨分解酵素阻害作用を有するため関節内注射剤として古くから使用されてきた. しかし, 抗炎症作用と作用期間が課題であった. ヒアルロン酸と非ステロイド性抗炎症薬であるジクロフェナクを化学的に結合させた「ジクロフェナクエタルヒアルロン酸ナトリウム (ジョイクル@)」関節注射剤は関節内で緩徐に加水分解されヒアルロン酸としての作用と, ジクロフェナクとしての抗炎症, 鎮痛作用を発揮する薬剤である. 関節液中からは早期に代謝させるものの組織に停滞し作用が持続する. このため同注射剤は 4 週間に 1 回の投与で効果を発揮する. 変形性膝および股関節症に対する臨床試験においてプラセボ対照群に比べて優位な除痛効果が示された. 人生100年時代, 人工関節など手術療法は進歩し満足する成績が報告されているものの, 手術を行うことなく健康寿命100年を全うするための有効な選択肢として今後さらなる臨床成績の蓄積が期待される.
 

第40回総会・秋季学術講演会

第39回春季学術講演会

第39回春季学術講演会

第39回 春季学術講演会
「痛みをめぐる冒険Ⅱ 〜慢性疼痛のせめぎ合い〜」
西宮市立中央病院 院長補佐 前田 倫 先生
 
痛みの対応の難しさは、実質的な損傷がなくても情動体験があれば痛みがあるとすることが困難である。特に終わりのある急性痛と比べて、慢性痛についてのゴール設定を痛みからの解放するためADLの改善に焦点を合わせるべきである。
頭痛について、1次性頭痛と2次性頭痛があり、まずは原因疾患がはっきりしている2次性頭痛を鑑別することが大切である。1次性頭痛は緊張型頭痛、片頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)の3つの特徴を知っておく必要がある。片頭痛は拍動性で、体動で悪化する頭痛で、嘔気・嘔吐を伴う頭痛であり、光や音が刺激となるので、暗くて静かなところを患者は好む、また、前兆を認めることがある。TACsは主に群発頭痛で、流涙や鼻水といった自律神経症状を伴い、じっとしていられない激烈な頭痛を生じて、男性に多いのが特徴であるが、症例数が少ないため、薬剤の治験が難しいといった問題がある。緊張型頭痛はそれほど強い痛みではなくストレスなどで引き起こされる頭痛であり機序ははっきりしておらず対処が難しい頭痛である。
片頭痛に対する新規治療薬であるCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)抗体についての話になる。
片頭痛の発生機序については現在、三叉神経血管説が有力とされている三叉神経終末から硬膜動脈にCGRPなどの神経ペプチドが放出され、血管拡張が起こり、発作的頭痛が発生するという機序である。CGRP関与するものとして、血管平滑筋弛緩、肥満細胞活性化、satellite glial cellの活性化、侵害刺激受容の亢進、シナプスにおける神経伝達促進などがあり、CGRP濃度の上昇を片頭痛患者に認める報告があり、CGRPが治療のターゲットとなってきた。片頭痛の本来の治療は発作時の頓挫療法と発作の予防療法の2つの軸が基本である。頓挫療法としてはエルゴタミン、NSAIDSを中心とした治療から、現在はトリプタンが治療の中心となっている。トリプタンは5-HT 1B/1D受容体作動薬で、脳血管を収縮させることで血管作動性物質の放出を抑制することで効果を発揮する。一方、新規薬物5-HT 1F受容体作動薬であるditan は血管収縮をきたすことなく三叉神経周囲への血漿蛋白漏出を抑制し、CGRP放出を抑制するという抗片頭痛効果を有する薬剤であり、トリプタンが使えない患者やトリプタンに反応しない患者への選択肢として期待される。
予防治療として、これまではカルシウム拮抗薬であるロメリジン、βブロッカー、三環系抗うつ薬、抗けいれん薬といった薬物が用いられてきた。それぞれ、使用に注意を要することも多くあった。新たな予防薬としてCGRP抗体ガルカネツマブが上市される予定(講演時は未発売)であるが、月1回120mgの皮下注射で、プラセボ群と比較して有意にベースラインと比較して片頭痛予防効果があるとされており、日本でも新たな予防薬として期待されている。ただ高価である欠点がある。また、反復性群発頭痛でもガルカネツマブは300mgの高容量にはなるが発作回数の減少が報告されている(FDAは2019年に認可)
続いて、仙腸関節の関連する痛みについて、仙腸関節障害によって生じる痛みは腰痛・下肢痛、時に鼠径部痛など様々な症状を呈する。診断については、仙腸関節スコア12点満点で5点以上あれば仙腸関節障害の可能性が高くなるとされる。スコアの中でも上後腸骨棘(PSIS)付近を痛い場所として患者が指を差すワンフィンガーテストがもっとも重要とされる。仙腸関節障害診断に用いるテストとしてはGaenslenテスト、Patrickテスト、Newtonテストなどがあるが、いずれも仙腸関節に歪みを与えて痛みが生じるかを確認するテストであり、疼痛誘発されることで、仙腸関節障害の可能性が高くなる。治療としては、仙腸関節ブロックで痛みが軽減されるかを確認することになる。痛みが軽減すれば診断に至る。また、仙腸関節注入ではなく後仙腸靭帯注入でも同様の効果が得られる。仙腸関節の関節外後方靭帯の治療域分類でArea0~3にそれぞれブロック注射することで、関連痛のパターンが違うためにそれを参考にする。
Bertlotti症候群とは最下位腰椎横突起と仙骨・腸骨への片側ないしは両側の癒合からなる解剖学的異常である。仙腸関節障害を起こすことがあり、若年者の慢性腰痛で難治性の場合には考慮する場合がある。
モノクロナール抗体Tanezumabが難治性慢性腰痛、変形性膝関節症、股関節症に対しての効果を認めるも、急速破壊型関節症をきたすことがあり注意を要する。
複合性局所頭痛症候群についてのこれまでの疾患概念についての話をされ、判定基準について、治療と補償は別であるということ、情動の関与や疾病利得といった様々な要素があり複雑な要因となること、末梢だけの問題でなく中枢の問題としてデフォルトモードネットワークの活動が亢進している可能性などが挙げられている。
(要約 藤原俊介)

 

第39回総会・秋季学術講演会

第39回総会・秋季学術講演会

「最新の痛みの診断と治療」
              大阪医科大学 麻酔科学教室 教授
兼 大阪医科大学附属病院 病院長 南敏明 先生
 
 痛みの治療が困難なことをその成因から説明されました。
痛みの治療が困難なのは定義からも分かるように実質的な損傷がなくても同様の情動体験があれば痛みとするという非常に主観的なものであるからです。これは痛みの伝達経路からも明らかなように脊髄/三叉神経脊髄路核-腕傍核-扁桃体路が視床や扁桃体を経由して大脳に痛みを伝達しているからです。扁桃体は過去の恐怖体験などと結び付き情動を生み出します。近年の研究では記憶にないほどの幼少期を過酷な環境で過ごした人はその後、認知機能障害、感情障害、素行障害を伴う可能性が高いと言われています。この機序として、幼少期では、まだ海馬の発達が未熟で、感情中枢が扁桃体に存在し、そこに無意識下での恐怖体験が刷り込まれ事による影響と考えられています。このことから痛みが遷延する人の中には幼少期の虐待、貧困などの生育環境が関与していることが意外に多いと推測されています。慢性痛患者なかには、このようなバックボーンがある可能性に考慮して治療戦略をたてることが重要です。
 
 次に麻酔科の痛みの治療の柱となるブロックについて少し注意すべき点についての示唆がありました。年齢や基礎疾患(特に糖尿病)と共に神経線維は変性し、刺激に対して脆弱になります。術後に原因不明の神経麻痺や障害が起こることがありますが、この中に持続硬膜外ブロックなどで高濃度局麻薬を投与したことに起因するものが少なからずあります。このような患者さんは非常に低濃度の局麻薬の使用でも交感神経ブロックによる血圧低下や知覚、運動神経の長時間の麻酔作用が起こりえます。そのことを十分に踏まえてブロックする必要があります。しかし、厄介なのは炎症が強い神経では局麻薬の効果が発現しにくいこともあり、この場合には局麻薬の濃度をあげることなく、ステロイドを併用し対処することが望ましい方法です。
 
 高齢者の痛みも今後は問題になってきます。高齢者の中でも認知機能に問題のある方に関しては、表情や行動変容を観察することが重要となります。ベンゾジアゼピン系の過剰投与が問題で身動きがとりづらい事による筋挫傷が痛みの原因であった症例もあり、意思疎通の困難な患者さんのペインディテクトの重要性、高齢者に対する安易な抗不安薬や睡眠薬の投与には注意が必要です。
 
 意外に慢性痛の中でも頻度が多いと考えられるのは術後痛です。術後の痛みは10%から20%の人がシビアに感じます。そして1%の人が術後遷延痛に悩まれているとの報告があります。特に開胸術、乳がん、鼡径ヘルニア、帝王切開などの手術後に多いとの報告です。遷延させないためには術後早期から痛み治療の関与することが重要です。これらは典型的な神経障害性疼痛ですので、通常のN S A I Dなどだけではなく、神経伝達をブロックする電位依存性カルシウムチャンネルのα2δブロッカーが有効です。特に近年発売されたミロガバリンは先行して発売されたプレガバリンと比較性して、α2δのサブユニットの1と2の二つの受容体のうち、中枢神経作用の眠気、ふらつきの副作用を発現するα2δ2との解離が早く、そのため副作用がでにくい可能性や増量の調節が容易になる可能性があります。また、神経障害性疼痛の遷延にはグリア細胞の関与が大きく、その活性化が問題になります。これを強く抑制するのが運動療法やS N R Iであり、早期からの運動やデュロキセチン®などの投与が勧められます。
 
 慢性痛はひと昔前にくらべてその機序などが詳細に解明されつつあり、それに付随した種々の薬剤が開発されています。これらの薬剤を駆使し、痛みに早期に介入することが慢性痛の予防には重要です。
                                          (要約:酒井雅人)

第39回総会・秋季学術講演会

「加齢と慢性疼痛―高齢者に対する治療戦略―」
国立長寿医療研究センター 整形外科部長 酒井義人先生
 
 
我が国で有病率15%とされる慢性疼痛は年齢とともに増加する傾向にあり、加齢による運動器障害の発生に加え、疼痛受容のメカニズムが変化していることも考えられる。ヒトは歳をとると生体機能が低下し、いわゆる老化(senescence)と呼ばれる状態になる。高齢者の運動器疾患および疼痛治療においては、この老化のメカニズムを知ることが重要である。老化に伴う炎症シグナルは“ inflamm-aging ”の一部と考えられ、加齢により炎症性サイトカインがサルコペニアをはじめとする加齢性疾患に与える影響が示唆されている。脊髄後角では加齢に伴い下行抑制機能が低下するため、高齢者は痛みを感じやすい反面、アルツハイマー型認知障害では脳における疼痛感受性は低下する。このような高齢者特有の病態が高齢者の運動器疾患や慢性疼痛に影響を与えている可能性がある。
 
老化に関する研究の最前線も紹介しつつ、老化に伴う種々の現象、症候が高齢者の慢性疼痛と関連しているか考えていきたいとご講演いただきました。
要旨は以下の通りです。
 
75歳以上ではVAS>50の患者が15%を占めている。
サルコペニアとは加齢性筋肉減少症で、筋肉量が落ちると痛みの感受性が増強する。
これは下降性抑制系の機能が低下し痛みの感受性が上がるためであるが、ガバペンチ
ノイドはこれを改善すし、アリセプトとの併用で相乗効果が得られる。
 
また、下肢筋肉量が減少するとPTが増加し骨粗しょう症が進行し、体幹筋肉も減少するが、
運動をすることにより筋由来のサイトカインであるミオカイン(IL6)がこの場合は
抗炎症作用を示す。
 
VitD低下により痛みの感受性が増強するが、投与することにより筋肉量が増加する。
またVitDはCOMTを抑制する。
 
老化に伴う“ inflamm-aging ”は老化した細胞が分裂せず炎症メディエータを出していると
考えられている。
 
骨粗しょう症の破骨細胞増加は酸化を起こし骨自体の痛みが出てくるが、エルシトニンは
後角で効いて痛みを軽減する。
 
ケルセチンと言われるVitPは抗酸化作用があり、ブロッコリーに多く含まれている。
(要約:高原 寛)

第38回春季学術講演会

「足の痛み診療におけるエコーの活用」
 
早稲田大学スポーツ科学学術院 教授 熊井 司先生
 
早稲田大学スポーツ科学学術院の熊井司教授をお招きし「足の痛み診療におけるエコーの活用」という演題で御講演いただきました。
足、特に足関節の痛みはX線検査で異常がないので外用薬で経過観察することが多かったのですが、この講演を聴き触診とともに超音波検査をする事で一歩進んだ診療ができるのではないかと思いました。
 また熊井先生は、Jリーグ・Vリーグ・自転車ロードレースのチームドクターをされており、アスリートの足スポーツ障害についてもお話を聴くことが出来ました。あるバレーボールチームではスタッフが定期的に超音波装置で選手の足間接の状態をフォローしているそうです。これにより練習メニューなどが調整され、大きな障害を未然に防ぐように努めているそうです。超音波装置もアスリートの選手寿命延長に貢献していると感じながら、非常に興味深い御講演を拝聴する事が出来ました。
 以下に熊井先生ご後援の抄録を示します。
 
足は元来、皮下脂肪や皮下組織が少なく、ほとんどの腱、腱膜、靭帯といった軟部組織が体表から3cm以内に存在している。そのため、ほとんどの構造物を容易に触れることが可能であり、触診が足を診るにあたっての重要なポイントとなってくる。どの部位にはどういった疾患が起こり得るのかを予め熟知しておくことで、ほとんどの疾患の予測が可能となる。まず触診による痛みの部位の確認を行い、次に画像情報を用いてそこで何が起こっているのかを可視化することで、より正確な診断へと導くことができる。
高周波リニアプローブを用いた超音波検査により、足部のほぼ全域にわたる軟部組織の描出が可能となる。今や超音波診断装置は足の痛み診療において不可欠の診断ツールとなりつつある。放射線被曝の危険性が無く、患者さんに苦痛を与えない検査法であるだけでなく、私たち医師が直接患者さんに接し、モニターの動画をリアルタイムに一緒に見ながら診療できることは、患者さんとのコミュニケーションを確立するうえでも非常に有用な検査法と言える。
 
1.   診断ツールとしての活用
超音波画像による診断技術は年々普及しつつある。組織の形態を描出するだけではなく、動態や血流、弾性といった質的情報を評価できることは超音波診断の特長といえる。足の疾患の中では、腱/腱付着部障害、靭帯損傷、滑膜炎、腫瘍性病変といった軟部組織病変に加え、インピンジメント症候群や疲労骨折、足根骨癒合症といった骨軟骨病変への応用にも用いられる。また、一般のX線検査では不得意とする小児期の靭帯・軟骨損傷に対する超音波検査の有用度は特に高い。
2.   治療補助ツールとしての活用
超音波装置の治療への応用も発展しつつある。アスリートの足スポーツ障害に対する治療原則は保存療法である。超音波装置を局所注入療法のアシストツールとして活用することで、より精度の高い治療効果が得られる。アキレス腱症や付着部症、足底腱膜炎といった難治性腱障害において、ターゲットとする解剖学的部位に正確に局所注入を行うためには今や不可欠なツールとなっている。また、同じくこの技術を用いた超音波ガイド下伝達麻酔(膝窩神経および伏在神経)により、現在ではほとんどの足の外科手術を伝達麻酔で行うに至っている。
                                  (要約:舟尾 友晴)

第38回春季学術講演

第38回春季学術講演会

「足の痛み診療におけるエコーの活用」
 
早稲田大学スポーツ科学学術院 教授 熊井 司先生
 
早稲田大学スポーツ科学学術院の熊井司教授をお招きし「足の痛み診療におけるエコーの活用」という演題で御講演いただきました。
足、特に足関節の痛みはX線検査で異常がないので外用薬で経過観察することが多かったのですが、この講演を聴き触診とともに超音波検査をする事で一歩進んだ診療ができるのではないかと思いました。
 また熊井先生は、Jリーグ・Vリーグ・自転車ロードレースのチームドクターをされており、アスリートの足スポーツ障害についてもお話を聴くことが出来ました。あるバレーボールチームではスタッフが定期的に超音波装置で選手の足関節の状態をフォローしているそうです。これにより練習メニューなどが調整され、大きな障害を未然に防ぐように努めているそうです。超音波装置もアスリートの選手寿命延長に貢献していると感じながら、非常に興味深い御講演を拝聴する事が出来ました。
 以下に熊井先生御講演の抄録を示します。
 
足は元来、皮下脂肪や皮下組織が少なく、ほとんどの腱、腱膜、靭帯といった軟部組織が体表から3cm以内に存在している。そのため、ほとんどの構造物を容易に触れることが可能であり、触診が足を診るにあたっての重要なポイントとなってくる。どの部位にはどういった疾患が起こり得るのかを予め熟知しておくことで、ほとんどの疾患の予測が可能となる。まず触診による痛みの部位の確認を行い、次に画像情報を用いてそこで何が起こっているのかを可視化することで、より正確な診断へと導くことができる。
高周波リニアプローブを用いた超音波検査により、足部のほぼ全域にわたる軟部組織の描出が可能となる。今や超音波診断装置は足の痛み診療において不可欠の診断ツールとなりつつある。放射線被曝の危険性が無く、患者さんに苦痛を与えない検査法であるだけでなく、私たち医師が直接患者さんに接し、モニターの動画をリアルタイムに一緒に見ながら診療できることは、患者さんとのコミュニケーションを確立するうえでも非常に有用な検査法と言える。
 
診断ツールとしての活用
超音波画像による診断技術は年々普及しつつある。組織の形態を描出するだけではなく、動態や血流、弾性といった質的情報を評価できることは超音波診断の特長といえる。足の疾患の中では、腱/腱付着部障害、靭帯損傷、滑膜炎、腫瘍性病変といった軟部組織病変に加え、インピンジメント症候群や疲労骨折、足根骨癒合症といった骨軟骨病変への応用にも用いられる。また、一般のX線検査では不得意とする小児期の靭帯・軟骨損傷に対する超音波検査の有用度は特に高い。
 
治療補助ツールとしての活用
超音波装置の治療への応用も発展しつつある。アスリートの足スポーツ障害に対する治療原則は保存療法である。超音波装置を局所注入療法のアシストツールとして活用することで、より精度の高い治療効果が得られる。アキレス腱症や付着部症、足底腱膜炎といった難治性腱障害において、ターゲットとする解剖学的部位に正確に局所注入を行うためには今や不可欠なツールとなっている。また、同じくこの技術を用いた超音波ガイド下伝達麻酔(膝窩神経および伏在神経)により、現在ではほとんどの足の外科手術を伝達麻酔で行うに至っている。
                                  (要約:舟尾 友晴)
 
 
 
 

第38回春季学術講演会

「関節エコー所見から関節炎疾患の病態を理解する
  ~関節炎からくる痛みにエコーで迫るために~」
 
大阪市立大学大学院医学研究科 
整形外科学 病院講師 岡野匡志先生
 
 関節痛を訴えてくる患者の中に、関節炎疾患を有する患者が存在する。関節炎疾患の代表は関節リウマチであるが、そのほかにも乾癬性関節炎などの脊椎関節炎やリウマチ性多発筋痛・変形性関節症などとの鑑別は重要である。関節リウマチの治療はMTXや生物学的製剤およびJAK阻害剤といった薬物治療が中心となっており、薬物療法の進歩に伴って関節破壊の進行はかなり抑えられるようになってきた。そこで、リウマチ患者を早期に的確に他の疾患を除外して診断することは非常に重要である。診断のためには2010年ACR/EULAR分類基準を用いて行うことになるが、その罹患関節の評価に関節エコー所見を用いることで、より診断の精度があがることがある。関節リウマチと鑑別が重要な疾患として乾癬性関節炎があげられるが、付着部炎が病態の主体である乾癬性関節炎のエコー所見は関節内滑膜炎がメインである関節リウマチとは異なり、その典型的なエコー画像が検出できれば鑑別が容易になる可能性がある。また、リウマチ性多発筋痛症では肩や股関節周囲の滑液包炎がみられることがあるが、炎症反応との組み合わせによる診断が重要である。また、痛風性関節炎や偽痛風性関節炎などの結晶誘発性関節炎においてもエコー所見が有用である。痛風性関節炎では軟骨表面に尿酸ナトリウム結晶が沈着するため、骨の表面の高エコーラインと軟骨表面の高エコーラインが2重の輪郭を示すDouble contour signが特徴である一方、偽痛風性関節炎では、硝子軟骨内に石灰沈着がみられるといった特徴があり、これらの所見が観察されれば診断が可能となる。このように、関節炎疾患にに関節エコー検査を行うことは非常に有用であり、関節痛の原因に迫るためには、関節にエコープローブを当てることが推奨される。
 本講演では関節エコーでの関節炎疾患の鑑別診断のポイントについて典型的な画像を提示しながらわかりやすく解説する。
                          (要約:久保田泰弘)

第38回春季学術講演

第38回総会・秋季学術講演会

第38回総会・秋季学術講演会

第38回 総会・秋季学術講演会                                            
「慢性疼痛の治療 UP to date」
愛知医科大学 医学部  学際的痛みセンター
教授  牛田享宏 先生
 
 痛みを考えていく上で重要なことは、痛みは感覚と情動体験により感じられていることである。この事に関する新しい基礎的および臨床的な知見について発表した。末梢神経におけるTRPV1の研究で視床下部の体温中枢に関与することやNSEIDsの先行投与で痛みを抑制できることなどを述べた。脊髄レベルの研究では脊髄での電気信号を観察する事により皮膚感覚受容野の変化を調べた。この解釈として変形性の関節症があっても痛みがない場合と広範囲に痛みを起こす場合がありこの違いは感作が関与していることが示唆された。
 また臨床的に脊髄損傷を起こしたときに抹消にallodyniaが現れるという症例についてどう解釈していくかを検討した。坐骨神経傷害モデルにおいて脊髄後角で神経再生のときに新しい神経回路ができるという結果からallodyniaの原因の一つと考えることができる。また別の研究では脊髄障害モデルで脊髄障害を作った部位にケモカインが見られるがその部位だけでなく他の領域にもケモカインが見られた。更に脊髄損傷を起こすと視床のVPL核にも炎症性の変化が見られた。一方、脊髄損傷を起こさずにVPLにケモカインを注入するとミクログリア活性がみられて痛がる反応を起こす。このことから痛みを感じるのに抹消からだけでなく脳の関与が示唆された。
 Allodyniaがある人に痛がる映像を見せるという研究を行った。その結果非常に嫌な感覚を伴う痛みが誘発された。脳の内部では記憶や情動に関与する領域が活性化されていた。これらの結果は痛みが記憶に関係していることが示唆された。               下肢のCRPSでallodyniaや骨萎縮を起こして歩行困難な症例に対して精神的なケアを行った結果症状が軽快し歩行も可能になったということを経験した。Allodyaniaのメカニズムには脳神経が関与することが考えられる。
  慢性疼痛に対して運動はfirst lineである。運動により痛みを作り出すシステムや痛みを抑え込むシステムに働きかけて痛みが軽減されると考えられる。レキュラーエクササイズとしてウォーキング、サイクリング、スイミングの運動レベルを上げていくことが慢性痛にとって非常に有効である。逆に体を動かさなかったときには関節、筋肉に対して器質的な変化を起こしてくる。
慢性疼痛に対する治療プログラムについて。1:2で座学と運動を20日間行っていくと1年後の復職率は75%であった。痛みの改善は14%であったがうつの改善など適応力が改善するものと考えられた。
慢性痛の約7割に腰痛を伴っている。腰痛に対して運動療法やブロック療法オピオイドの仕様に関しての腰痛に関して得られるコンセンサスを整理したまたオピオイドの仕様における問題点について症例も含めて問題点を指摘した。
 長引く痛みには器質的な要因とともに非器質的な要因が改善を阻害していくことがある。これらの慢性疼痛に対してのアプローチとして生物心理社会モデル的な観点で分析し対応していく必要がある。器質的な病態の診断と身体的運動機能の評価を根幹として心理社会面の検討を進めてゴールを考えていくことが重要である。
(要約:河田圭司)


「iPS細胞技術を用いた関節軟骨疾患の新しい治療方法開発
~変形性膝関節症への展開を含めて~」
京都大学 iPS細胞研究所 臨床応用研究部門 教授 妻木範行先生
 
変形性膝関節症は基本的に年齢とともに外傷、壊死などを繰り返すことにより薄くなることで、関節軟骨が変性加齢変化によって骨になって痛みが生じていると考えられている。
関節軟骨は修復できない!基本的に治らない!しかしながら、関節軟骨は修復能に乏しいため、その損傷に対して細胞/組織移植による再生治療が期待されているその理由の一つに軟骨は血管がなく軟骨細胞は拒絶反応が少ないことがあげられる。
 軟骨は、細胞外マトリックス(ECM)の中に軟骨細胞が散在する構造をとる。軟骨はⅡ型コラーゲンである細胞外マトリックス(ECM)が無いと死滅してしまう。軟骨細胞外マトリックスは1.軟骨細胞が作る 2.体重を支え関節運動を担う3.軟細胞の性質を維持する機能も果たしている。関節軟骨損傷に対して自己軟骨細胞移植術が行われている。この方法では、その軟骨ECMを酵素で消化して軟骨細胞を培養しているので軟骨細胞は変質し数が減少してしまう。それを移植することで得られる修復組織は硝子軟骨ではなく線維性組織を含んでしまうため再生できない。
  一方、海外では死体由来の同種関節軟骨の移植術が行われている。
軟骨は免疫原性が低く同種移植が可能とされているがドナー不足とドナー個体間差による移植軟骨の品質のばらつきが課題とされている。そこで、十分な量の高品質な軟骨を用意する方法を開発することがiPS細胞に求められている。人工多能性幹細胞(iPS細胞)から軟骨を作製する方法の開発を行っている。iPS細胞が持つ未分化多能性と自己複製能は、高品質な軟骨をほぼ無限量に作出することを可能にする。ヒトiPS細胞から軟骨細胞を分化誘導する培養条件を探索し、現在では3次元培養を組みわせることによって誘導軟骨細胞に軟骨ECMを作らせて軟骨を作ることが可能になった。軟骨を作ることにより、その中に含む軟骨細胞を安定に維持できる。また、iPS細胞由来軟骨は生体軟骨と同様に免疫原性が低いことが判明した。よって、品質管理された1種類の同種iPS細胞を材料に用いることにより、均一な軟骨組織を大量に作製することが出来、硝子軟骨による修復を行える可能性がある。同種ヒトiPS細胞由来軟骨を用いた関節軟骨欠損の再生治療の実現に向けて研究開発を行っている。
 
 
 

第37回 春季学術講演会

第37回 春季学術講演会

「人はがんとどう向き合うか? 」        
公益財団法人 日本対がん協会
           会長 垣添 忠生 先生
 
 この度先生には4つの構成でご講演をいただきました。
 
 まず「がんはどういう病気か」についてお話をいただきました。がんは遺伝子の異常によって発生する細胞の病気であり、その原因としてはタバコ、食事、感染症が75%を占めている。こうした原因により、遺伝子の異常が多段階に蓄積し、永い時間がかかって正常細胞ががん化し、さらにがん細胞が浸潤、転移を起こし、最終的には人の死を招きうる。つまりがんは私たちの生活習慣が関わる慢性病である。この理解に基づき日本も含めて世界のがん対策は、予防、検診、治療、緩和ケアの四本柱で構成されている。禁煙やワクチン接種による予防、早期発見ができるがんは検診を受ける、がんの診療をしっかりとする、治せないがんは緩和医療が必要であるが、緩和ケアではがん患者を痛みの中に放置をしてはいけない ことが世界の共通理解であることを解説いただきました。
 
 次に、がんと人との組み合わせの多様性を具体的な例をあげてご紹介をしていただきました。がんに向き合うのに強い人もいれば弱い人もいるので、医療はその総てを包摂してあること。がんも多彩であり人も多様であるのでこの組み合わせは無際限と言うべき多様性を頭に置いて、日々患者さん・家族を向き合うことが必要であることを説明いただきました。
 
 三番目に先生の奥様は甲状腺がん、肺腺がんを経験し、手術で治癒されました。三つ目のわずか4mmで発見された小細胞肺がんによる、その一年半に渡った闘病生活の経緯についてお話をいただきました。その後の先生の苦悩と再生についてもお話をいただきました。またがん患者の背後に家族、そして遺族がいることを忘れるわけにはいかないこと。ご自身もがんを経験されており、これらの先生の経験から、今後のがん対策にどう生かすかを考えられ、がん検診、サバイバー支援、在宅医療およびグリーフケアの充実について尽力をされておられることについてお話いただきました。
 
 四番目に、ヒトは
「1027 、10-35 メートルの世界に漂う儚い存在である」ことについてお話いただきました。
この世で最大のものが宇宙であり、最小が素粒子である。
つまり最大の宇宙が1027 メートルであり、最小が素粒子で10-35 メートルでありこの途方もないスケールが自然界の幅である。その中で人は存在をしている儚い存在である。
一方でヒトは60兆個の細胞で構成されている。1個の細胞を10ミクロンとすると身体全体の細胞を並べると60万kmとなる。核の中には繋ぎ合わせれば1.8mのDNAが存在し、身体の中のDNAをすべてつなぎ合わせると1,000億kmとなり太陽と地球を300往復する距離である。その遺伝子構成は一人一人違う。儚く弱々しい存在に見えるヒトは実は一人一人個性を持った強靱な存在であるということが分かること。弱く見える人ですがしっかり決意をすると大きな達成につながることを解説をしていただきました。
 
最後にメッセージとして
 
「がんになっても安心して暮せる社会を創ろう」
がん経験者は肉体的にも精神的にも社会的にも何重にも傷つきやすい存在であるため、がん経験者ががんになる以前と同じような生活を気負いなく営める、がん患者を特別視しない社会が成熟社会に求められる。
 
「希望があれば生きられる」
人間一人ひとりは弱くて儚い存在だが、また巨大な存在でもある。どんな状況に置かれても人は希望があれば生きられる。
 
とお言葉をいただきました。
(要約:長谷一郎)

「ここまで来た!がんに対する粒子線治療(陽子線・重粒子線)~疼痛緩和や皮膚炎ケアも含めて~
兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター 医療部長
兼 兵庫県立粒子線医療センター 放射線科 部長   出水 祐介 先生
 
 粒子線は放射線の一種ですが、皆さんが普段放射線と聞いてイメージするのは恐らくほとんどがX線と思います。X線は光子線というカテゴリーに入りますが、それに対して粒子線というのは別のカテゴリーの放射線になります。その中には陽子線あるいは炭素線というビームがあり、現在臨床に使用されているのはこの2種類になります。
炭素線(正式には炭素イオン線)は重粒子線の一つではありますが、炭素線=重粒子線と思っていただいていいと思います。
粒子線治療は放射線治療の一つになりますが、通常の放射線は光の波であるのに対して、粒子線治療とは例えば陽子線なら水素イオン、炭素線なら炭素イオンの粒子を飛ばして、癌に当てて治療します。それでは光の波を飛ばすのと、粒子を飛ばすのと何が違うか。大きく違うところは深さ方向への線量分布が違います。どういうことかといいますと、光子線は体表近くで線量が最大になり、深部に行くにしたがって減衰していくのに対し、粒子線は体表近くでは比較的低線量であり深部(癌の位置)に合わせて最大のエネルギーを放出する(ブラッグピークと呼ばれる)ことができます。ブラックピークを越えると劇的にエネルギーは低下しほぼ0になります。ブラックピークを癌の位置やサイズに合わせて拡大すると(拡大ブラッグピーク)周囲の正常組織への線量を低く保ったまま、癌へ高線量を照射することができます。
陽子線と炭素線の違いについては、細かい違いはあるものの、ざっくり言ってそんなに大きな違いはありません。
陽子線治療装置は回転ガントリー(360°回転し任意の角度から照射可能)を標準装備しておりますが、炭素線治療装置は固定ポートが標準であり、そのため炭素線は照射する角度に制限があります。照射範囲に関しても炭素線より陽子線のほうが広くなります。ビームの直進性は炭素線のほうが高く、横へのブレ(側方散乱)が少なくよりシャープに照射することができます。
粒子線が癌に対し、X線と比較してどれだけの効果を示すかを表す生物学的効果比(RBE)については、陽子線はX線とほぼ同等のRBE=1.1であるのに対して、炭素線は3といわれております。しかし、両者を使用した経験上、そこまでは違わないというのが実際のところです(我々の持っているデータでも有意差はありません)。
RBEが1.1というのは弱点のように思えますが、逆にX線の膨大なデータを利用することができ、特に小児に関しては安心して使用することができるので、こちらが推奨されております。一方、重粒子線については、効果は別として長期の影響が不明であることから、小児癌の患者さんにはあまり使わないほうがいいといわれております。
現在、日本にどれぐらいの粒子線治療施設があるのかといいますと、陽子線で16施設、炭素線が6施設あります。兵庫県立粒子線医療センターは両方使用できる世界で初めての施設で、いまだに日本ではこの施設だけであり、粒子線治療の施設としては21施設となります。
対象疾患としては、X線治療が対象となるほぼすべての疾患を対象としますが、特に頭蓋底腫瘍、頭頚部癌、肺癌、肝癌、直腸癌の術後再発、前立腺癌、骨軟部腫瘍などを対象としており、施設によって扱う疾患にそれぞれ特色があります。
X線との違いでいいところは、X線抵抗性の腫瘍(頭頚部非扁平上皮癌、骨軟部肉腫)に適応があることです。そして、周囲臓器の被爆が問題となる場合(小児悪性腫瘍、頭蓋底腫瘍、副鼻腔癌など)がよい適応になります。肺癌でも間質性肺炎を合併している場合、X線は禁忌ですが、粒子線は可能である場合があります。肝癌においては、日本の場合、肝炎、肝硬変を併発されている場合が多く、当然肝機能が低下しており、手術やX線治療が困難な場合がありますが、この場合、粒子線が適しているかと思います。小児の場合は被曝により成長障害を起こしたり、二次発癌を起こしたりするため、できるだけ被曝を避けなければいけないので、粒子線はいい適応になります。
これらの疾患を中心に積み上げた実績が評価され、2016年4月に「小児悪性腫瘍に対する陽子線治療」「骨軟部腫瘍に対する重粒子線治療」が保険収載されました。
さらに2018年4月には「骨軟部腫瘍に対する陽子線治療」「頭頚部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮癌を除く)に対する陽子線・重粒子線治療」「前立腺癌に対する陽子線・重粒子線治療」が保険収載となりました。さらなる保険適応の拡大を目指して、疾患ごとのワーキンググループを作り、システマティックレビューや論文作成を進めております。
(要約:加藤治人)
 

第37回総会・秋季学術講演会

第37回総会・秋季学術講演会

頭痛の診かた2018:ガイドラインと国際頭痛分類をふまえて
社会医療法人寿会 富永病院 脳神経内科・頭痛センター  竹島多賀夫先生
 
 
頭痛は遭遇頻度の高い症状である。重篤な疾患の症状のこともあるが、器質疾患がないにもかかわらず辛い頭痛の発作を繰り返す患者も多く、これらの患者は一次性頭痛(慢性頭痛症)として医療介入が必要である。本講演では一次性頭痛のうち特に支障度の高い片頭痛と三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)について概説した。
 世界保健機関(WHO)による調査では片頭痛によるburdenは深刻で、健康寿命に影響する対策が必要な疾患として取り上げられている。 わが国では、日本頭痛学会が中心となって慢性頭痛の診療ガイドライン2013、国際頭痛分類第3版(日本語版)が整備されており、また頭痛患者の診療経過を評価する頭痛診療に取り組むための必須のツールとしての頭痛ダイアリーと合わせ、頭痛診療の3点セット(頭痛三種の神器)とも称されている。各頭痛の診断は国際頭痛分類の診断基準に従い、マネージメントはガイドラインに沿って行うことで標準的な頭痛診療を実践できる。
 片頭痛は閃輝暗点と片側性、拍動性の頭痛が特徴であるが、この特徴にとらわれすぎると、多くの片頭痛患者を正しく診断できない。頭痛による生活の支障、日常的な動作による頭痛の増悪、悪心・嘔吐、音過敏・光過敏などの随伴症状が重要である。片頭痛のスクリーニングツールも開発されている。
 片頭痛の急性期治療はトリプタンを効率的に使用することが肝要である。頭痛が始まってからなるべく早く,軽度のうちに使用する。前兆期・予兆期に使用すると効果が十分発揮されないので頭痛が始まってから使用する。片頭痛の診断が正しくなされているにもかかわらず効果不十分な場合は服薬タイミングの確認、工夫、1回用量の増量、トリプタンのブランド変更、鎮痛薬・NSAIDsの併用などを考慮する。
片頭痛発作が月に2回以上あるいは6日以上ある患者では予防療法の実施について検討することが勧められている。急性期治療のみでは片頭痛発作による日常生活の支障がある場合,急性期治療薬が使用できない場合,永続的な神経障害をきたすおそれのある特殊な片頭痛には予防療法を実施する。予防薬にはCa拮抗薬(ロメリジン)、β遮断薬(プロプラノロール)、抗てんかん薬(バルプロ酸)、抗うつ薬(アミトリプチリン)などが使用されるが、同じ薬効群の薬剤でも片頭痛に有効なものと無効なものがある。片頭痛患者の頭痛以外の共存症なども考慮して薬剤を選択する。詳細はガイドライン等を参照いただきたい。
群発頭痛は、現在の分類では三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)のひとつのタイプに位置付けられている。TACsは片側の眼窩から前頭、側頭部の激痛と、同側の眼充血、流涙、鼻汁漏、眼瞼下垂、縮瞳などの自律神経症状を伴うことが特徴である。発作の持続時間や薬剤の反応性などにより、群発頭痛以外に、「発作性片側頭痛(PH)」、「短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNHA-SUNCT/SUNA)」、「持続性片側頭痛(HC)」などがある。以前は非典型的群発頭痛として報告されたもので、疾患単位として整理された。
群発頭痛の治療は発作時にはスマトリプタンの皮下注ならびに高濃度酸素(純酸素5-10L/分)が奏功する。平成30年診療報酬改訂で群発頭痛の在宅酸素療法の保険適用が承認された。群発期の予防療法としてベラパミルとプレドニゾロンが有効である。ベラパミルは便秘、徐脈に注意して、240mg/日程度を用いる。海外ではさらに高用量が用いられている。プレドニンは連用すると様々な問題が発生するので、発作初期の2週程度の使用に留めるようにし、維持的予防療法はベラパミルを中心にする。
発作性片側頭痛は群発頭痛より頭痛発作の持続時間が短くインドメタシンが著効する。持続性片側頭痛は持続性の頭痛があり、時に重度の頭痛と自律神経症状が同時におこるのが特徴でインドメタシンが奏功する。
短時間持続性片側神経痛様頭痛発作は頭痛の持続時間が1~600秒と短い。多くは数十秒から数分程度の発作で、連日、数十回異常の発作を繰り返す。きわめて難治性であるが発作時にはリドカインの静注が有効である。予防薬としてラモトリギンが一定の有効性が確認されている。
頭痛診療において保険適用が承認されている薬剤が欧米と比べまだ十分とはいえないが、頭痛学会等からの働きかけにより治療環境は整いつつある。トリプタンは欧米より10年遅れたが5製剤が導入されている。2008年にはスマトリプタン在宅自己注射キットが認可された。公知申請によりバルプロ酸、プロプラノロールは片頭痛が適応症として追加されている。また、いわゆる55年通知に基づいた厚生労働省保険局医療課長通知により頭痛診療必須の薬剤が適応外使用ではあるが保険診療上使用が認められる薬剤も増えてきた。カルバマゼピン(頭部神経痛、頸部神経痛)、プレドニゾロン(群発頭痛)、ベラパミル(片頭痛、群発頭痛)、リドカイン静注(難治性疼痛)、アミトリプチリン(片頭痛、緊張型頭痛)、チザニジン(緊張型頭痛)などが該当する(薬剤後のカッコ内は対象病名)。
多くの麻酔科、ペインクリニックの先生方が頭痛診療に積極的にかかわっていただき、多くの彷徨える頭痛患者が救われることを祈念している。
                              (要約:曲渕 達雄)

議事録

第31回秋季学術講演会 学術講演抄録
今回の学術講演は、医療法人 出水クリニックの院長であります出水明先生に、「ミックス型診療所で展開する在宅医療」という演題で御講演をしていただいた。

ミックス型診療所というあまり聞きなれない言葉だが、内科・ペインクリニックの外来診療と同様に在宅ケアも行う診療所であり、出水先生は1996年の開業当初から在宅医療にご尽力されてこられた。
『日本の将来推計人口において、少子高齢化により、2055年には65歳以上の老年人口が40%をこえる。年間死亡数も2035年には現在の1.4倍になると予測されている。
現在、年間126万人が死亡しているが、癌、心疾患、脳卒中がその原因の50%以上を占めている。
余命が限られているときにどこで過ごしたいかという質問に、80%の人が自宅で過ごしたいと答えている。
しかし6割の人が実際は難しいと考えている。
自宅以外で療養したいと答えた人においても、その理由は家族の負担が大きく、迷惑をかけるというものが大半を占めていた。
昭和50年に約半数の人が家で亡くなられていたのに対し、現在家で亡くなられる人は十数%であり、大半の人が病院で最後を迎えている。
各国と比較しても日本は病院死の比率は突出している。
在宅医療、在宅ケアとは、入院治療では改善が望めない病気や障害を持ち、通院困難になった時に、人生の残された貴重な時間を住み慣れた家 (地域) で過ごしたいという患者及び家族の要望を尊重して、医療・介護面からサポートすることである。
障害が残り、あるいは余命を宣告された場合、今できることは何なのかを求めることが大事であり、そしてそれに一番適した場所が住み慣れた自宅であり、自宅で過ごす魅力は非常に大きい。
家での生活を支えるために在宅医療があるが、居宅だけでは完結しないことも多く、他施設間他職種の連携が必要となってくる。
在宅医としての役割は、定期的な訪問診療と臨時の必要に応じた往診を組み合わせ、訪問看護との密接な関係をもとに、24時間365日の対応で、通院困難な患者のかかりつけ医となることである。』
以上のように前半は在宅医療の現状と必要性について講演された。

後半は出水クリニックでの実際の活動を紹介された。
スタッフは常勤医1名、非常勤医1名、常勤看護師 (うち5名はケアマネージャー兼務) で外来診療と訪問診療、訪問看護を担当されている。
1996年以降、在宅導入患者数は644人で、死亡466人に対し、在宅死は70%以上の341人に及んでいる。
かなりの人を在宅で看取られたことになる。
在宅での疼痛管理を含めた医療行為や疾患別の特徴や、在宅ケアの普及のために、医療提供者に求められる24時間365日対応をどのように行なっておられるのか話された。

24時間対応に関しては自院内の訪問看護師との連携体制をとり、毎日朝と昼食時に在宅訪問記録をもとにカンファランスを持たれている。
もちろん訪問看護ステーションとの連携も充実されている。
岸和田在宅ケア24という取り組みについても話をされ、これは岸和田市で同じような在宅ケアを行っている7診療所 (当初4施設) で連携をとり、365日診療所間連携で対応するというシステムであった。
在宅ケア勉強会の開催や、その交流をもとに、地域でのネットワークを充実させることにも努力されており、その功績により岸和田市は8年間で在宅死は3倍となり、もちろん大阪府自治体別癌在宅死割合でトップになっている。
地域診療所間連携により、医師不在時の待機を依頼することも可能となり、自身の外出や休暇も取れるようになったと言われたが、とはいえ在宅での看取りの時間帯で72%は時間外であると聞くと、自分のOffの時間を犠牲にする部分も多いのではと考えてしまう。
その後も実際の活動や経験談を話され、最後に出水医師は、
『家族のホームグラウンドは家庭であり、患者家族がそのホームグラウンドで過ごすことに役立ちたいと思う。
今後も在宅医療の普及のために麻酔科医を始め、さまざまなバックグラウンドを持つ医師が在宅医療に魅せられることを望む。』
と締めくくられた。
「社保審査の現状」抄録
はるなクリニック 春名 優樹
保険診療はルールに基づいての診療であり、審査はそのルールに適合しているかを判断している。ルールは「保険医療機関および保険医療養担当規則 (療担規則)」、「医科点数表 (の解釈)」に示されている。支払側 (保険者) に説明できるレセプトが必要で、そのためには症状詳記が重要になる。ペインクリニックで特に関心が高いと思われる「神経ブロックが容認される症例」に関しての支払基金の基本的スタンスは、神経ブロックは急性期が適応であり、慢性期は注射治療 (トリガーポイント注射など) が主になる、というものです。
慢性期に必要性に迫られて神経ブロックを施行する場合は、その必要性に関しての症状詳記が必須です。神経ブロックは特別な治療と認識していただき、特別な治療をする場合は詳記をお願いします。


「認知症と意識障害」 

      名古屋フォレストクリニック 院長 河野 和彦 先生

   河野先生は毎年、400人を越える認知症の患者を診察し、クリニックのホームページでは認知症ブログを書き続けるなど、認知症への理解を広める取り組みを積極的に展開しておられます。その方法論は河野メソードとよばれ、最新著書として今回「高野メソードで見る認知症診療」(日本医事新報社)を上梓されたばかりであります。今回、河野を講師に招き「認知症と意識障害」についてご講演いただいたので、その要約を以下に報告いたします。

 「認知症は10年で倍増する。」と考えていた厚労省は読み違いであり、認知症は急増しており、認知症爆発は明日にでも起こる。認知症はあなたの外来にも必ずいるはず。現在、75歳以上の5分の1が認知症と考えられる。判別するにはぜひ改訂長谷川式スケールの習得を推奨された。このスケールの盲点として、1)認知症を確定するカットオフポイントが無いこと。2)スコア1桁の患者は必ずしも重度ではないこと。3)スコアが低い認知症患者がいる点、を指摘された。具体的に、加齢と認知症の違いを買い物、料理、薬、怒る、排尿行為等の例を出しこういう言い方ならわかるでしょと解説された。ここまでが一般論であり、今回の講演のテーマの一つとして、まず認知症の概要を話された。大前提として認知症学は未完成のため、役に立たない約束事があること。例えば、「意識障害のある時に認知症と確定してはなぬ。」に対して、「現実には、1部の認知症はせん妄を合併している。」などの例をあげられ、新たな認知症学の構築が必要であることを強調された。また、注意事項として、内科疾患では、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、ビタミンB1欠乏症(ベルニッケコルサコフ症候群)など。脳外科疾患では、正常圧水頭症、硬膜下血腫などのtreatable dementiaのルールアウトが重要で、見落とすと裁判では負ける旨説明された。次に、認知症の分類を、変性性認知症と二次性認知症に分類し、前者では、アルツハイマー型認知症(ATD)、レビー小体型認知症( DLB)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、ピック病、意味性認知症があり、後者は主に脳血管性認知症(VD)が該当する。各認知症の症例提示がなされ、その特徴と診断手段なとが丁寧なスライドにより説明された。

 次に今回のテーマである、認知症と意識障害について講演された。意識障害とは、物事を正しく理解することや、周囲の刺激に対する適切な反応が損なわれている状態をさす。また、意識の構成は「清明度」、「広がり」、「質的」の3つの要素があり、「広がり」の低下(意識の狭窄)は、催眠、昏睡、半昏睡、昏迷、失神。 「質的」変化(意識変容)はせん妄やもうろう等を生じる。また、覚醒の座は、主座は脳幹網様体調節系にあるとされ、もうひとつ認知に関しては大脳皮質全体に存在すると言われている。意識障害の場合は、この一方ないし両方が損害されている。即ち、意識障害をみた場合は脳幹、大脳皮質、全身性疾患の3つを考えれば良い。 DLB に起きたせん妄例や、大脳皮質の例として、クロイツフェルト•ヤコブ病、全身疾患例として肝性脳症、大脳皮質と脳幹合併例として低活動性せん妄例のスライドが紹介された。ここで河野メソー

ドの考え方として、認知症を意識障害で二群に分けると、覚醒系認知症(ATD. FTLD)では抑肝散やニコリン注射への反応が無反応なのに対して、意識障害系認知症(クロイツフェルトヤコブ病、DLB、代謝•内分泌系認知症、脳血管性認知症)などは良好な反応を示す。このような観点から、具体的な症例が以下提示された。急激に悪化したATDへの対応として、1)新病変の検索、2)薬の副作用のチェック、3)診断の変更を掲げ、パーキンソン病(PD)の診断では、歯車様筋拘縮の具体的な調べ方、レビー小体型認知症 (DLB) の意識障害3態、各症例にニコリンを投与して劇的に改善したスライドが紹介された。なぜ DLB は劇的に改善するのかのスライドでは、DLB はATDと違い脳萎縮が軽いため、元々意識回復の実力を秘めていることが視覚的に示され、なるほどと納得させられた。意識障害を消すことがDLB治療のコツであるという河野メソードが披露された。結局、意識障害系認知症では中核症状や周辺症状に薬剤を投与する前に意識障害を覚醒させないと話にならないわけである。ここからは、ニコリン注射療法の実際の投与方法がスライドで紹介された。

 次に、河野メソードの治療論が紹介された。脳萎縮は絶望ではないこと、誤った考え方は、周辺症状は、中核症状から派生したものだから、中核症状を治せば、周辺症状も消えるはず(アリセプト単独処方)であり、河野メソードでは、陽性症状をまず抑制系で落ち着かせてから中核症状改善薬を投入する。そのためには、今まで投与されてきたアリセプトをウオッシュアウトすること、抑制系を投入することが大事で、アリセプトを急にやめても脳内に17日間残るため、悪性症候群は起きないことが強調された。また、河野メソードでは家族にどうして欲しいかを聞くことが大事で、その具体作として、配布された資料コミュニケーションシートの利用を勧められた。ここからは河野メソードによる実際の症例がたくさんのスライドで提示された。その中から、アセチルコリンドーパミン天秤の概念やアリセプトとリスバダールをドパミン阻害ダブルバーガー称し、実際のハンバーガーをモチーフにしたスライドも提示された。また、健康補助食品として、NEWフェルガード(フェルラー酸+ガーデンアデリカ)の認知機能改善効果や、ルンベルクス•ルベルスの動脈硬化改善効果が紹介された。また、新薬紹介として、レミニール、メマリー、リバスタッチパッチに対する河野先生の評価が述べられた。最後に、1.一般医の認知症の参入は社会の強い要請、2.いわゆる専門医の医療レベルは、 惨憺たる状態である、3.薬物の種類、用量の規定は守るべからず、4.意識障害の解消なくして認知症治療は進まないことが、まとめのスライドで提示された。そして、名医への近道としてアリセプトを絞ること、ニコリン注射を多用することを掲げて、講演終了となった。以上、余りにも密度の濃い講演であったため、紙面では書ききれなかったが、詳しくは、河野先生の最新著書「高野メソードで見る認知症診療」(日本医事新報社)を一読されることをお薦めする。なお、この講演の感想を河野先生自身のブログ(http://dr-kono.blogzine.jp/ninchi/2012/10/)に掲載されておりますので、こ興味のある方は、このブログもご参照ください。

 (要約 浜 直)