第37回 春季学術講演会

第37回 春季学術講演会

「ここまで来た!がんに対する粒子線治療(陽子線・重粒子線)~疼痛緩和や皮膚炎ケアーも含めて~
 
兵庫県立粒子線センター付属神戸陽子線センター
  医療部長 出水 祐介 先生
 
 
 粒子線は放射線の一種ですが、皆さんが普段放射線と聞いているのは恐らくほとんどがX線と思います。X線は光子線というカテゴリーに入りますが、それに対して粒子線というのは別のカテゴリーの放射線になります。その中には陽子線あるいは炭素線というビームがあり、現在臨床に使用されているのはこの2種類になります。
炭素線(正式には炭素イオン線)は重粒子線の一つではありますが、炭素線=重粒子線と思っていただいていいと思います。
粒子線治療は放射線治療の一つになりますが、通常の放射線は光の波であるのに対して、粒子線治療とは例えば水素なら水素イオン、炭素なら炭素イオンの粒を飛ばして、癌にあてて治療します。それでは光の波を飛ばすのと、粒子を飛ばすのと何が違うか。大きく違うところは深さ方向への線量分布が違います。どういうことかといいますと、光子線は体表近くで線量が最大になり、深部に行くにしたがって減衰していくのに対し、粒子線は体表近くでは比較的低線量であり深部(癌の位置)に合わせて最大のエネルギーを放出する(ブラッグピークと呼ばれる)ことができます。ブラックピークを越えると劇的にエネルギーは低下しほぼ0になります。ブラックピークを癌の位置やサイズに合わせて拡大すると(拡大ブラッグピーク)周囲の正常組織への線量を低く保ったまま、癌へ高線量を照射することができます。
陽子線と炭素線の違いについては、細かい違いがあるものの、ざっくり言ってそんなに大きな違いはありません。
陽子線治療装置は回転ガントリー(360°回転し任意の角度から照射可能)を標準装備しておりますが、炭素線治療装置は固定装置が標準であり、そのため炭素線は照射する角度に制限があります。照射範囲に関しても炭素線より陽子線のほうが広くなります。ビームの直進性(側方散乱)は炭素線のほうが高く、横へのブレが少なくよりシャープに照射することができます。
粒子線が癌に対し、X線と比較してどれだけの効果を示すかを表す生物学的効果比(RBE)については、陽子線はX線とほぼ同等の生物学的効果比(RBE):1.1であるのに対して、炭素線は3といわれております。炭素線は陽子線の3倍強いといわれますが、両者を使用した経験上、そこまでは違わないというのが実際のところです。(我々の持っているデータでもそれほどの有意差はありません。)
生物学的効果比が1.1というのは弱点のように思えますが、逆にX線の膨大なデータを利用することができるので特に小児に関しては安心して使用することができるのでこちらが推奨されております。逆に重粒子線においては効果は別として長期の影響が不明であることから小児癌の患者さんにはあまり使わないほうがいいといわれております。
現在、日本にどれほどの粒子線治療施設があるのかといいますと、陽子線で16施設、炭素線施設が6施設あります。兵庫県立粒子線医療センターは両方使用できる世界で初めての施設でいまだに日本ではこの施設だけであり、粒子線治療の施設としては21施設となります。
対象疾患としては、X線治療が対象となるほぼすべての疾患を対象としますが、特に頭蓋底腫瘍、頭頚部、肺、肝、直腸がんの術後再発、前立腺癌、骨軟部腫瘍などを対象としており、施設によって扱う疾患にそれぞれ特色があります。
X線との違いでいいところはX線抵抗性の腫瘍(頭頚部非扁平上皮癌、骨軟部肉腫)に適応があることです。そして、周囲臓器の被爆が問題となる場合(小児悪性腫瘍、頭蓋底腫瘍、副鼻腔癌など)がよい適応になります。肺がんでも間質性肺炎を合併している場合、X線は禁忌ですが粒子線は可能である場合があります。肝臓癌においては日本の場合は肝炎、肝硬変を併発されている場合が多く、当然肝機能が低下しており、手術やX線治療が困難な場合がありますが、この場合、粒子線が適しているかと思います。小児の場合は被爆により成長障害を起こしたり、二次発癌を起こしたりしますのでできるだけ被爆を避けなければいけないので、粒子線はいい適応になります。
これらの疾患を中心に積み上げた実績が評価され、2016年4月に「小児悪性腫瘍に対する陽子線治療」「骨軟部腫瘍に対する重粒子線治療」が保険収載されました。
さらに2018年4月には「骨軟部腫瘍に対する陽子線治療」「頭頚部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮癌を除く)に対する陽子線・重粒子線治療」「前立腺癌に対する陽子線・重粒子線治療」が保険収載となりました。さらなる保険適応の拡大を目指して、疾患ごとのワーキンググループを作り、システマティックレビューや論文作成を進めております。
                                (要約:加藤治人)

第37回総会・秋季学術講演会

第37回総会・秋季学術講演会

頭痛の診かた2018:ガイドラインと国際頭痛分類をふまえて
社会医療法人寿会 富永病院 脳神経内科・頭痛センター  竹島多賀夫先生
 
 
頭痛は遭遇頻度の高い症状である。重篤な疾患の症状のこともあるが、器質疾患がないにもかかわらず辛い頭痛の発作を繰り返す患者も多く、これらの患者は一次性頭痛(慢性頭痛症)として医療介入が必要である。本講演では一次性頭痛のうち特に支障度の高い片頭痛と三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)について概説した。
 世界保健機関(WHO)による調査では片頭痛によるburdenは深刻で、健康寿命に影響する対策が必要な疾患として取り上げられている。 わが国では、日本頭痛学会が中心となって慢性頭痛の診療ガイドライン2013、国際頭痛分類第3版(日本語版)が整備されており、また頭痛患者の診療経過を評価する頭痛診療に取り組むための必須のツールとしての頭痛ダイアリーと合わせ、頭痛診療の3点セット(頭痛三種の神器)とも称されている。各頭痛の診断は国際頭痛分類の診断基準に従い、マネージメントはガイドラインに沿って行うことで標準的な頭痛診療を実践できる。
 片頭痛は閃輝暗点と片側性、拍動性の頭痛が特徴であるが、この特徴にとらわれすぎると、多くの片頭痛患者を正しく診断できない。頭痛による生活の支障、日常的な動作による頭痛の増悪、悪心・嘔吐、音過敏・光過敏などの随伴症状が重要である。片頭痛のスクリーニングツールも開発されている。
 片頭痛の急性期治療はトリプタンを効率的に使用することが肝要である。頭痛が始まってからなるべく早く,軽度のうちに使用する。前兆期・予兆期に使用すると効果が十分発揮されないので頭痛が始まってから使用する。片頭痛の診断が正しくなされているにもかかわらず効果不十分な場合は服薬タイミングの確認、工夫、1回用量の増量、トリプタンのブランド変更、鎮痛薬・NSAIDsの併用などを考慮する。
片頭痛発作が月に2回以上あるいは6日以上ある患者では予防療法の実施について検討することが勧められている。急性期治療のみでは片頭痛発作による日常生活の支障がある場合,急性期治療薬が使用できない場合,永続的な神経障害をきたすおそれのある特殊な片頭痛には予防療法を実施する。予防薬にはCa拮抗薬(ロメリジン)、β遮断薬(プロプラノロール)、抗てんかん薬(バルプロ酸)、抗うつ薬(アミトリプチリン)などが使用されるが、同じ薬効群の薬剤でも片頭痛に有効なものと無効なものがある。片頭痛患者の頭痛以外の共存症なども考慮して薬剤を選択する。詳細はガイドライン等を参照いただきたい。
群発頭痛は、現在の分類では三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)のひとつのタイプに位置付けられている。TACsは片側の眼窩から前頭、側頭部の激痛と、同側の眼充血、流涙、鼻汁漏、眼瞼下垂、縮瞳などの自律神経症状を伴うことが特徴である。発作の持続時間や薬剤の反応性などにより、群発頭痛以外に、「発作性片側頭痛(PH)」、「短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNHA-SUNCT/SUNA)」、「持続性片側頭痛(HC)」などがある。以前は非典型的群発頭痛として報告されたもので、疾患単位として整理された。
群発頭痛の治療は発作時にはスマトリプタンの皮下注ならびに高濃度酸素(純酸素5-10L/分)が奏功する。平成30年診療報酬改訂で群発頭痛の在宅酸素療法の保険適用が承認された。群発期の予防療法としてベラパミルとプレドニゾロンが有効である。ベラパミルは便秘、徐脈に注意して、240mg/日程度を用いる。海外ではさらに高用量が用いられている。プレドニンは連用すると様々な問題が発生するので、発作初期の2週程度の使用に留めるようにし、維持的予防療法はベラパミルを中心にする。
発作性片側頭痛は群発頭痛より頭痛発作の持続時間が短くインドメタシンが著効する。持続性片側頭痛は持続性の頭痛があり、時に重度の頭痛と自律神経症状が同時におこるのが特徴でインドメタシンが奏功する。
短時間持続性片側神経痛様頭痛発作は頭痛の持続時間が1~600秒と短い。多くは数十秒から数分程度の発作で、連日、数十回異常の発作を繰り返す。きわめて難治性であるが発作時にはリドカインの静注が有効である。予防薬としてラモトリギンが一定の有効性が確認されている。
頭痛診療において保険適用が承認されている薬剤が欧米と比べまだ十分とはいえないが、頭痛学会等からの働きかけにより治療環境は整いつつある。トリプタンは欧米より10年遅れたが5製剤が導入されている。2008年にはスマトリプタン在宅自己注射キットが認可された。公知申請によりバルプロ酸、プロプラノロールは片頭痛が適応症として追加されている。また、いわゆる55年通知に基づいた厚生労働省保険局医療課長通知により頭痛診療必須の薬剤が適応外使用ではあるが保険診療上使用が認められる薬剤も増えてきた。カルバマゼピン(頭部神経痛、頸部神経痛)、プレドニゾロン(群発頭痛)、ベラパミル(片頭痛、群発頭痛)、リドカイン静注(難治性疼痛)、アミトリプチリン(片頭痛、緊張型頭痛)、チザニジン(緊張型頭痛)などが該当する(薬剤後のカッコ内は対象病名)。
多くの麻酔科、ペインクリニックの先生方が頭痛診療に積極的にかかわっていただき、多くの彷徨える頭痛患者が救われることを祈念している。
                              (要約:曲渕 達雄)

中本先生御講演

中本先生御講演

今回は、関西医科大学麻酔科学講座診療教授 中本達夫先生 をお招きし
「超音波を用いた痛み診療の実際と可能性」という演題でご講演いただきました。
本会会員の多くは昭和に医師となり、超音波診断装置を用いることなく所謂ブラインドアプローチで神経ブロックを修練してきた世代ですので、最新の非常に興味深い御講演を拝聴することが出来たと思います。
以下、中本先生御講演の抄録です。
 
 超音波診断装置(US)が、末梢神経ブロック手技や運動器疾患の評価・疼痛治療手技に対して広く用いられるようになり、その効果の確実さから、最近の10年以上にわたって著しい普及を見てきた。
とりわけペインクリニック領域では、USによって軟部組織での血管や神経の存在が容易に観察でき、骨性構造についても表面形状の確認については詳細に観察出来ることから、それまでX線透視下でのみ実施されていた神経ブロックでも、超音波ガイド下で確実に実施できるものも多くなってきている。
しかしながら、骨性構造では超音波は表面で反射されるため、内部構造や骨性構造の深部について情報が得られないのも事実であり、頭蓋底や傍脊椎領域の一部のブロックではX線透視やCTガイドでの手技に優位性がある。
一方で、放射線被曝やX線透視では軟部組織の描出ができず、CTガイド下手技では設備面での問題やリアルタイム性に乏しいのも事実である。
脊椎や傍脊椎領域とりわけ頚椎領域に起因する運動器疼痛性疾患では、USで皮膚から骨表面に至るまでの解剖を良好に描出できることから、USあるいはUSX線透視などの併用手技が、安全性を担保しつつ、その診断や治療に有効であると考える。
これまでに経験した、診断に難渋した頚椎化膿性椎間板炎や椎体腫瘍の症例について供覧し、これらを通じて安全面・確実性の点からUSX線ハイブリッドなどの可能性について解説を行う。
また、USを用いた痛み治療は局所麻酔薬を用いた神経ブロックだけでなく、近年では生理食塩水やブドウ糖液を用いた筋膜間・靭帯・肩板・滑液包などの組織へ注入を行うHydro release Prolotherapy が注目されている。これらはその鎮痛機序についての明確な答えは未だ出ていないものの、大きな関心が寄せられている。
さらに、USを用いることで、視神経や瞳孔系の確認も可能で、脳圧による変化や対光反射の評価に応用した報告がある。
現状では、客観的な痛みの測定法は存在せず、患者の訴えのみによって評価されているが、皮膚への疼痛刺激によって瞳孔の散大が生じる、皮膚―瞳孔反射が患者の意識に影響されない真の体性疼痛の評価法として応用できる可能性が示唆されている。慢性疼痛における中枢性修飾による疼痛の増強は、有効な治療によって減少すると考えられ、超音波を用いた連続的瞳孔径測定は慢性疼痛における治療評価法として利用できるかもしれない。
                               (要約:坂田 和房)

第36回春季学術講演会

第36回春季学術講演会

第36回春季学術講演会
「日常よく見られる肩肘疾患の診断と治療」
信原病院・バイオメカニクス研究所
顧問 整形外科 金谷 整亮 先生

1、肩の解剖
肩は3つの解剖学的関節
① 肩関節、②肩鎖関節、③胸鎖関節と、
3つの機能的関節
①肩甲胸郭関節、②第2肩関節、③第2肩鎖関節がある

2、診察
① 問診のポイント
患側が利き手か非利き手か、スポーツ歴(特に野球、ソフトボール、バレーボールのように肩を酷使するスポーツ)、職業(大工、左官、重労働)を問診の際に聞いておく必要がある。
② 肩の診察の際には
① 可動域(ROM)測定、②筋力テスト(MMT)③ 日常生活動作群(ADL)
の評価を行う。
③ 理学所見:各種テストを行う
今回はInstability,laxityを検査する上で
Anterior apprehension test(対象:前方脱臼・亜脱臼)をご説明頂いた。
坐位で肩関節90°外転位、肘を90°屈曲し、前腕は回内外中間位として、外転位を保持したまま上腕骨頭を前方に押しながら肩関節を外旋する。
外旋時、脱臼不安感を訴えれば、陽性である。
④ レントゲン:下垂位内外旋と挙上位の3方向は最低限必要。
⑤ 関節造影:
ウログラフィン10ccと0.5%キシロカイン20ccを使用。
単純レントゲンと同様に3方向撮影。
肩を90°外転位とし内旋を加えることにより、肩甲下滑液包の閉塞が改善され、疼痛が軽快することが多い(Joint distension)。この時、挙上方向にmanipulationを加えることもある。
肩甲下滑液包閉塞の臨床的意義
肩甲下滑液包の閉塞は肩関節疾患の34.3%に存在している。
関節内減圧は注入液圧により15%、関節運動により33%獲得可能。



各論

①肩関節周囲炎
40歳以降に発症する有痛性の肩関節制動症で、原因は不明。
原因となる部位は、肩峰下滑液包、腱板、関節包、烏口突起、上腕二頭筋長頭腱が考えられている。
Ⅰ、診察のポイント
烏口突起に圧痛があることが多い。
特徴的な画像所見がない。
DMを合併している場合、重症で両側性の場合が多い。
Ⅱ、鑑別診断
a,腱板断裂
他院で五十肩や肩関節周囲炎と診断され、なかなか治らないため当院を受診さ
れた患者さんで腱板断裂と診断された方は多い。疑わしい場合はエコーやMRI
をとることが望ましい。

b,頚椎症性神経根症
肩周辺は主としてC5神経根によって支配されている。肩関節に異常所見がなく
肩の痛みを訴える場合、本症を疑うべきである。

Ⅲ、治療方針
a,急性期
NSAID,ヒアルロン酸NAや局麻剤・ステロイドの注射
b,慢性期
運動療法、関節造影によるjoint distension
Ⅳ、問題点
凍結肩となりなかなかリハビリに反応しない症例がある。関節拘縮、
烏口上腕靭帯の内旋位での拘縮、大円筋・広背筋の拘縮が原因と思われる。
2か月以上たってもリハビリに反応しない症例には関節鏡視下の授動術も考慮
する。

②石灰沈着性腱板炎
40~50歳代の女性に好発
Ⅰ、原因(石灰沈着物はハイドロキシアパタイト)
1) 肩峰下での機械的圧迫により腱板の栄養血管が減少し、腱板が低酸素状態となり軟骨細胞が出現し石灰化。
2) 腱細胞内外のイオンバランスの変調によりカルシウム塩が析出。
Ⅱ、診断
レントゲン写真で石灰沈着を確認し、圧痛点と一致しておれば診断は容易。
Ⅲ、治療
NSAID,シメチジン
体外衝撃波治療(ESWT)
国内適応疾患:足底筋膜炎
国際衝撃波治療学会(ISMST)の適応疾患
(足底筋膜炎)アキレス腱炎、上腕骨外上顆炎、石灰沈着性腱板炎
膝蓋腱炎、骨折遷延治癒・偽関節、疲労骨折
(日本では適応となっていないので、自由診療で扱っているようです。)

慢性期でインピンジメントを起こしたものには手術で石灰を除去。

③腱板断裂
断裂は血行の乏しいcritical portionに起こりやすい。

Ⅰ、原因
加齢やオーバーユースにより、腱板に変性や関節面断裂を生じ、外傷が加わり完全断
裂になるのが一般的である。中には全く外傷がないのに完全断裂となっている症例がある。(特に高齢者)

Ⅱ、分類
a,完全断裂: 小断裂、中等度断裂、大断裂、広範囲断裂
b,不全断裂: 表層断裂(滑液包側)、腱内断裂、深層断裂(関節包側)
c,その他: 肩甲下筋腱単独断裂、棘下筋腱単独断裂、腱板間隙部縦断裂

Ⅲ、症状
夜間痛とpainful arcが特徴的な症状
挙上障害
拘縮(比較的若い症例で断裂が小さいものに多い)
棘上筋、棘下筋の筋萎縮(大~広範囲断裂にみられる)

Ⅳ、理学所見
大結節におけるcrepitusの触知
腱板機能検査(SSP test, ISP test, Lift off test)

Ⅴ、単純レントゲン
広範囲断裂では肩峰と上腕骨頭の間隙が狭くなっている。

Ⅵ、関節造影
完全断裂では肩峰下滑液包に造影剤の漏出を認める。
Ⅶ、MRI:斜位冠状断、斜位矢状断、肩甲下筋腱断裂には横断像が有効

Ⅷ、手術適応
a,外傷性腱板完全断裂
重労働者ではできるだけ早期に手術。その他は1~3ヶ月保存的加療を行ってもADLに支障があるもの。
b,非外傷性腱板断裂、陳旧例、不全断裂
挙上制限がなければ保存的加療を行うが、3ヶ月保存的加療を行ってもADL障害が強ければ手術。
挙上制限があれば早期に手術をした方が良い。
Ⅸ、保存的加療
安静、NSAID、肩峰下滑液包への局麻剤+ステロイドの注射

スポーツ障害(投球障害)

⑥ 投球障害のまとめ
1) 投球障害の予防には、腱板肩関節周囲筋群を強化し肩の安定性を高める。
2) 体幹、下肢の筋力強化を行い、肩の負担を軽くする。
3) 投球前のウォームアップと投球後のクールダウンを確実に行う。
4) 投球フォームのチェックを行う。
5) 体全体をつかってうまく最大外旋、ゼロポジションに導かれるように指導する。

⑦ 肘の投球障害
1) 外側障害(離断性骨軟骨炎 Osteochondritis Dissecans OCD)
2) 内側障害(内上顆のfragmentation)
3) 後方障害(肘頭偽関節)
Ⅰ、離断性骨軟骨炎 OCD
初期は上腕骨小頭外側の透亮像(骨壊死)。
発症しやすい素因が存在する。
投球による上腕骨小頭へのストレスが原因と考えられている。
a,病期分類と平均発症年齢
透亮期: 外側型、中央型 11歳
分離期: 前期型、後期型 13歳
遊離体期:巣内型、巣外型 14歳

透亮期は通常、痛みなどの症状がないことが多いので、分離期以降に痛みや可動域制限のために病院を受診する。
b,レントゲン写真
上腕骨小頭前方に発生するので、正面像のレントゲン写真では分からない。
タンジェンシャルビューが必要。(肘屈曲45°で撮影)
c,エコー
スクリーニングとしてレントゲン被爆の問題からエコーが有効。
エコーによる検診を行い、レントゲン写真で異常があれば、6~12か月間投球禁止。
透亮期のうちに投球を禁止させて、治療をはかるのが理想的。
d,治療
分離期、遊離体期では手術
Mosaic plasty(膝から骨軟骨柱を移植)

Ⅱ、内側障害(内上顆のfragmentation)
投球による外反ストレスで内側側副靭帯により牽引される。
1~2ヶ月の投球禁止で痛みがなくなれば投球を許可する。
レントゲン写真での骨癒合は2年かかる。
OCDを合併している場合は、OCDの治療を優先させる。

Ⅲ、肘頭偽関節(肘頭の骨端線の癒合不全)
治療として
スクリューによる固定
体外衝撃波治療(ESWT)

Ⅳ、肘の投球障害のまとめ
上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎は、痛みが出た時は既に病期が進み、手術が必要なことが
多い。
痛みがない時に、エコーを用いた検診は有効。
肘検診と投球制限が基本。
本格的に野球をするのは、骨端線が閉鎖する中学3年生以降でよいと思う。
(要約:高原 寛)

「開業医のための骨粗鬆症の診断と治療」 近畿大学医学部奈良病院 整形外科・リウマチ科

「開業医のための骨粗鬆症の診断と治療」 近畿大学医学部奈良病院 整形外科・リウマチ科

日本骨粗鬆症学会理事長である先生の講演は、骨粗鬆症診療全般に渡り、大変実際的な内容のお話でした。まず、骨粗鬆症の定義としては、骨強度の低下を特徴とし、骨折リスクが増大する骨格疾患、骨強度は骨密度が70%、骨質が30%を担う、とした。骨粗鬆症の骨折の代表は椎体や、大腿骨近位部骨折であり、非脆弱性骨折が特徴。特に、大腿骨近位部骨折が重要で、一旦起これば、手術の有無に関わらず、5年生存率は50%以下と予後不良。診断基準は、脆弱性骨折の有無と骨密度で評価する。FRAX10年以内の骨折発生率を予測するもので、閉経後女性と50歳以上の男性で使用可能。骨粗鬆症の薬物治療では、有効性の評価がオールAのものを選択すべき。薬剤は、アレンドロネート、リセドロネート、ゾレドロネート、デノスマブが該当する。ステロイド性骨粗鬆症の場合では、3か月以上プレドニン7.5mg以上の使用が予想されれば、年齢に関わらず骨粗鬆症治療を行うべき。第一選択薬は、アレンドロネート、リセドロネートである。今後はゾレドロネート、デノスマブも候補になる。薬剤の特徴を見た場合、ビスフォスフォネート(BP)、デノスマブは骨リモデリング抑制剤で、海綿骨、緻密骨ともに有効、テリパラチドは骨リモデリング促進剤で海綿骨には薬剤中一番有効性が高いが、緻密骨では多孔性を増大させマイナスの作用が危惧される。BP製剤やデノスマブによる非定型骨折、顎骨壊死に関しては、その発生頻度は著明に低く、車乗車の際のシートベルト着用の有効性と着用に伴うリスクの関係に擬せられ、使用を避ける理由にはならない。歯科医からの休薬要請の問題は、口腔外科学会のガイドラインがあり、休薬すべきでないと示された。治療目標は、まず治療前に患者とゴールを決める必要がある。骨密度であれば骨粗鬆症領域からの離脱であるが、大腿骨近位部での評価が重要で、病診連携の必要が出てくる。治療中骨折が起こった場合は、治療に反応していてもより強力な薬剤に変更するか、変更できる薬剤がなければそのまま継続して、3-5年間骨折がなければ通常のゴールを使用する。治療薬を使用する順番としてはテリパラチドを使用して骨吸収抑制剤に変更するのが良いが、現在は保険で認められていないので不可能。ドラッグホリデーに関しては、BP製剤は残存効果があるが、他の薬剤では認められない。特に、デノスマブにはリバウンドがあり、中止により骨密度の低下が認められるので、BP製剤への切り替えが必要。
(要約:春名優樹)

第36回 春季学術講習会

第36回 春季学術講習会

痛みの考えかた~心頭を滅却すれば火もまた涼し~

痛みの考えかた~心頭を滅却すれば火もまた涼し~

痛みの考えかた~心頭を滅却すれば火もまた涼し~
 三重大学医学部 麻酔集中治療学 教授 丸山一男先生

痛みの信号を伝える神経は、Aδ線維とC線維である。Aδ線維を介して脊髄に入力した信号は、視床を介して、体性感覚野に入り、痛む場所の判別に関与する。一方、C線維は、Aδ線維からの刺激が上行する経路を並走し、体性感覚野に入ると共に、さらに内側を上行し、大脳辺縁系(前帯状回、扁桃体、海馬、島など)に到達する経路を持つ。体性感覚野では、場所と純粋な疼痛を感じ、大脳辺縁系で不快な情動が湧きあがる。体性感覚野と大脳辺縁系からの信号が前頭前野に到達し、前頭前野で疼痛と情動が統合し、その人に痛みの知覚となる。したがって、痛みを感じている人が不快なのは正常な反応といえる。
身体には、自分で自分の痛みを抑える仕組みがある。痛み刺激を伝える神経は、大脳へ信号を送るとともに、脳幹(中脳、橋、延髄)へも刺激を横流しし、この信号が脳幹を介して脊髄を下行し、脊髄レベルでの痛みのシナプス伝達を抑える。これを下行性抑制系という。下行性抑制系の末端では、エンケファリンなどの内因性オピオイド、セロトニン、ノルアドレナリン、GABAなどが放出され、痛みの1次ニューロンからの神経伝達物質の放出を抑えるともに、2次ニューロンで興奮性シナプス後電位(過分極のことです)をもたらし、シナプス伝達を抑える。この系は、前頭前野での選択と集中により活性化でき、不安、心配、ストレスにより逆に抑制される。
非常に強い侵害刺激や長期にわたる連続した侵害刺激の脊髄後角への入力は、1次ニューロン終末からの神経伝達物質の放出を高めるとともに、シナプス後2次ニューロンでの活動電位発生の域値を下げる。電気生理的には、シナプス後でKが蓄積し、正常では閉じているNMDA受容体の開口し、NMDA受容体の開口に起因する閾値の低下がある。NMDA受容体は、海馬や小脳での記憶に関与するが、脊髄後角も存在し、脊髄レベルでの痛みの記憶の一旦を担っていると考えられる。
記憶は、繰り返すと強化される。冷却期間を置くと薄れる。いつも痛いと、脊髄後角で痛みを忘れることができない。ブロックや薬物によって、痛くない時間を長く作ることが、脊髄随での痛みを忘れさせる本質的治療である。普通の記憶に個人差があるように、脊髄での痛みの記憶を忘れるのにも個人差があるのであろう。
(参考図書 丸山一男 痛みの考えかた 南江堂 第4刷 2017

「痛み治療に対するインターベンショナル治療の役割

「痛み治療に対するインターベンショナル治療の役割

「痛み治療に対するインターベンショナル治療の役割
              〜当科での現状、海外での現状〜」
NTT東日本 関東病院 ペインクリニック科
部長 安部洋一郎 先生
当科は1976年のペインクリニック科開設以来、インターベンショナル治療を痛み治療の本幹と考え診断、治療に用いている。昨年の外来受診者数は延べ38.848人、入院患者数は延べ4940人であった。特に近年様々な疼痛治療薬が市販されており、当科初診の患者でもほとんどは投与されたうえで当科受診する。また、本年7月一か月の新患患者206人でおよそ54%の患者で神経ブロックを受けたが効果不十分で当科初診となっている。つまりは現状の薬剤療法、通常の神経ブロック療法でも患者満足度は低いといえる。この理由の一つに痛みの原因箇所に適切に治療薬が到達していないことが考えられる。我々はそのために様々なインターベンショナル治療を用いて患者の痛みを減らす。痛み軽減したうえで適切なリハビリテーションや痛みの悪循環をもたらす思考の改善を促す。
また当院はJCI(国際医療評価機構)病院であり、3回目の受審を受けた。1.2回目と異なり3回目は対外に報告するデータの信頼性を担保するデータの質の評価が加わった。当科では頸部神経根の同定やSGBの際必要なC6頸長筋の描出テストを研修生に課し、ダブルチェックを行うことで正確性だけでなく検査の精度も表示することとした。今後さらなる客観データを取るための包括尺度や疾患特異尺度を用いて当科での治療評価を示す予定である。
インターベンショナル治療のスタートは正確に患部に到達する神経ブロック技術である。硬膜外洗浄術は年間500例を超えて施行している。目的神経根だけでなく疼痛物質を生じる椎間板付近の硬膜外腔へ薬液を到達させるため仙骨裂孔アプローチだけでなく、後仙骨孔アプローチ、椎間孔アプローチを用いている。ラッツカテーテルも同様の方法で行っている。また、パルス高周波法の今後の可能性にも言及した。1度のパルス高周波法で3か月無痛の症例を提示した。また、高齢者の変性椎間板に対し、Disk FKによる椎間板形成術を行い下肢痛の軽減例を示した。他に最新Cアームレントゲン装置によるガッセル神経節ブロック、脊髄刺激療法の新しいモードの有効性について述べ、今後の病診連携の活発化をお願いした。

NTT東日本関東病院ペインクリニック科は日本でのフロントランナーであり、ここからの情報発信には皆が注目している。開業医レベルでは困難な治療法が多いがアンコントロールな患者に対してのバックアップは心強い限りである。エコーの普及によりペインクリニック領域でも運動器に対しての関心は高く、エコーガイド下神経ブロックも確実な解剖の上に行う重要性を指摘している。リハビリテーションと認知行動療法の重要性も講演中に何度か指摘しており、神経ブロック療法との併用は必要であることを再確認した。安部先生は、高校時代のバレーボール部での活動中に手関節を痛め、その時のブロック?が効いたことがペインクリニックを目指すきっかけとなったそうです。痛みが劇的に改善する神経ブロックは、医療機器の向上
により治療精度が上がって来ておりペインクリニシャンとしては今後、内科やリハビリに伴う運動器の診断技術も必須となってくること考えさせられました。

(要約 松田 真弥)

第36回 総会・秋季学術講演会

要約「痛みの考えかた 〜心頭滅却すれば火もまた涼し〜 」

「痛みの考えかた 〜心頭滅却すれば火もまた涼し〜 」                        三重大学大学院医学系研究科                          麻酔集中治療学  教授  丸山一男 先生
「痛い」という感覚は、ヒトなら誰でも経験済みです。自分の痛みは自分だけが
感じるものであり、本人でないと実際分からず、他人にはわかりません。自分の痛みは
自分の経験に基づいてたずね、その答えから推測する知覚・認識であります。
痛みの発生の仕組み→発痛物質や神経での電気活動→は、動物実験で得られた結果で
推察されているのです。
 まぜ痛むのか?という問いに、丸山先生は、実際に自身のすねを、手持ちの
マイクで思い切りたたき、Aδ繊維とC繊維の神経伝達速度の差を説明されました。
(Aδは100m/s、C繊維は1m/s)
 懇親会で先生のすねを見せていただくと、色が変わっていました。
本気でマイクでたたかれていたのです。これほど伝わる講演はありません。
 Aδ繊維、C繊維で発生した活動電位は、脊髄後角に入ります。脊髄に入った
刺激は、脊髄後角でニューロンを乗り換えるので、脊髄後角が第一中継点となります。
精髄後角でニューロンを換えた刺激はさらに第二中継点に向かいます。
第二中継点は脳幹(中脳、橋、延髄)と視床であります。視床に第二中継点を持つ
経路を脊髄視床路といいます。
 そして痛みの刺激は、最終的に脳に達します。侵害刺激によって発生した活動電位
は、痛む場所と強さを認識する部分(新皮質)と、快・不快をわき起こす部分(大脳
辺縁系に信号を同時に送ります。
 もしも痛みが快感だったら、いつも痛いことをするので怪我だらけになってしまいます。
脊髄後角には、痛みを伝える1次ニューロン、2次ニューロン、介在ニューロンが
存在しています。下降性抑制系の神経線維は、これらすべてにシナプス結合しており
シナプス結合部位は、様々に考えられます。
 そこで除痛のためには、①1次ニューロンのシナプス前終末部からの痛みの伝達物
質(グルタミン酸、サブスタンスPなど)の放出を抑えます。
②痛みの伝達物質が2次ニューロンに結合しても活動電位が発生しないようにします。
③その両者があります。
先生には、生理学的、生化学的な見地からも痛みの原理を解説していただきました。
  まとめとして
○痛みは電気的変化である。
○治療として神経の活動電位の発生を抑える。
○すべての治療薬は間接的、直接的に痛みの活動電位発生を抑制している。
○オピオイド、セロトニン、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、N型カルシウム
チャンネル阻害薬は、脊髄後角に作用する。
○複数の作用点を抑えて痛みを止める。
      (要約 久保田 泰弘)

議事録

第31回秋季学術講演会 学術講演抄録
今回の学術講演は、医療法人 出水クリニックの院長であります出水明先生に、「ミックス型診療所で展開する在宅医療」という演題で御講演をしていただいた。

ミックス型診療所というあまり聞きなれない言葉だが、内科・ペインクリニックの外来診療と同様に在宅ケアも行う診療所であり、出水先生は1996年の開業当初から在宅医療にご尽力されてこられた。
『日本の将来推計人口において、少子高齢化により、2055年には65歳以上の老年人口が40%をこえる。年間死亡数も2035年には現在の1.4倍になると予測されている。
現在、年間126万人が死亡しているが、癌、心疾患、脳卒中がその原因の50%以上を占めている。
余命が限られているときにどこで過ごしたいかという質問に、80%の人が自宅で過ごしたいと答えている。
しかし6割の人が実際は難しいと考えている。
自宅以外で療養したいと答えた人においても、その理由は家族の負担が大きく、迷惑をかけるというものが大半を占めていた。
昭和50年に約半数の人が家で亡くなられていたのに対し、現在家で亡くなられる人は十数%であり、大半の人が病院で最後を迎えている。
各国と比較しても日本は病院死の比率は突出している。
在宅医療、在宅ケアとは、入院治療では改善が望めない病気や障害を持ち、通院困難になった時に、人生の残された貴重な時間を住み慣れた家 (地域) で過ごしたいという患者及び家族の要望を尊重して、医療・介護面からサポートすることである。
障害が残り、あるいは余命を宣告された場合、今できることは何なのかを求めることが大事であり、そしてそれに一番適した場所が住み慣れた自宅であり、自宅で過ごす魅力は非常に大きい。
家での生活を支えるために在宅医療があるが、居宅だけでは完結しないことも多く、他施設間他職種の連携が必要となってくる。
在宅医としての役割は、定期的な訪問診療と臨時の必要に応じた往診を組み合わせ、訪問看護との密接な関係をもとに、24時間365日の対応で、通院困難な患者のかかりつけ医となることである。』
以上のように前半は在宅医療の現状と必要性について講演された。

後半は出水クリニックでの実際の活動を紹介された。
スタッフは常勤医1名、非常勤医1名、常勤看護師 (うち5名はケアマネージャー兼務) で外来診療と訪問診療、訪問看護を担当されている。
1996年以降、在宅導入患者数は644人で、死亡466人に対し、在宅死は70%以上の341人に及んでいる。
かなりの人を在宅で看取られたことになる。
在宅での疼痛管理を含めた医療行為や疾患別の特徴や、在宅ケアの普及のために、医療提供者に求められる24時間365日対応をどのように行なっておられるのか話された。

24時間対応に関しては自院内の訪問看護師との連携体制をとり、毎日朝と昼食時に在宅訪問記録をもとにカンファランスを持たれている。
もちろん訪問看護ステーションとの連携も充実されている。
岸和田在宅ケア24という取り組みについても話をされ、これは岸和田市で同じような在宅ケアを行っている7診療所 (当初4施設) で連携をとり、365日診療所間連携で対応するというシステムであった。
在宅ケア勉強会の開催や、その交流をもとに、地域でのネットワークを充実させることにも努力されており、その功績により岸和田市は8年間で在宅死は3倍となり、もちろん大阪府自治体別癌在宅死割合でトップになっている。
地域診療所間連携により、医師不在時の待機を依頼することも可能となり、自身の外出や休暇も取れるようになったと言われたが、とはいえ在宅での看取りの時間帯で72%は時間外であると聞くと、自分のOffの時間を犠牲にする部分も多いのではと考えてしまう。
その後も実際の活動や経験談を話され、最後に出水医師は、
『家族のホームグラウンドは家庭であり、患者家族がそのホームグラウンドで過ごすことに役立ちたいと思う。
今後も在宅医療の普及のために麻酔科医を始め、さまざまなバックグラウンドを持つ医師が在宅医療に魅せられることを望む。』
と締めくくられた。
「社保審査の現状」抄録
はるなクリニック 春名 優樹
保険診療はルールに基づいての診療であり、審査はそのルールに適合しているかを判断している。ルールは「保険医療機関および保険医療養担当規則 (療担規則)」、「医科点数表 (の解釈)」に示されている。支払側 (保険者) に説明できるレセプトが必要で、そのためには症状詳記が重要になる。ペインクリニックで特に関心が高いと思われる「神経ブロックが容認される症例」に関しての支払基金の基本的スタンスは、神経ブロックは急性期が適応であり、慢性期は注射治療 (トリガーポイント注射など) が主になる、というものです。
慢性期に必要性に迫られて神経ブロックを施行する場合は、その必要性に関しての症状詳記が必須です。神経ブロックは特別な治療と認識していただき、特別な治療をする場合は詳記をお願いします。


「認知症と意識障害」 

      名古屋フォレストクリニック 院長 河野 和彦 先生

   河野先生は毎年、400人を越える認知症の患者を診察し、クリニックのホームページでは認知症ブログを書き続けるなど、認知症への理解を広める取り組みを積極的に展開しておられます。その方法論は河野メソードとよばれ、最新著書として今回「高野メソードで見る認知症診療」(日本医事新報社)を上梓されたばかりであります。今回、河野を講師に招き「認知症と意識障害」についてご講演いただいたので、その要約を以下に報告いたします。

 「認知症は10年で倍増する。」と考えていた厚労省は読み違いであり、認知症は急増しており、認知症爆発は明日にでも起こる。認知症はあなたの外来にも必ずいるはず。現在、75歳以上の5分の1が認知症と考えられる。判別するにはぜひ改訂長谷川式スケールの習得を推奨された。このスケールの盲点として、1)認知症を確定するカットオフポイントが無いこと。2)スコア1桁の患者は必ずしも重度ではないこと。3)スコアが低い認知症患者がいる点、を指摘された。具体的に、加齢と認知症の違いを買い物、料理、薬、怒る、排尿行為等の例を出しこういう言い方ならわかるでしょと解説された。ここまでが一般論であり、今回の講演のテーマの一つとして、まず認知症の概要を話された。大前提として認知症学は未完成のため、役に立たない約束事があること。例えば、「意識障害のある時に認知症と確定してはなぬ。」に対して、「現実には、1部の認知症はせん妄を合併している。」などの例をあげられ、新たな認知症学の構築が必要であることを強調された。また、注意事項として、内科疾患では、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、ビタミンB1欠乏症(ベルニッケコルサコフ症候群)など。脳外科疾患では、正常圧水頭症、硬膜下血腫などのtreatable dementiaのルールアウトが重要で、見落とすと裁判では負ける旨説明された。次に、認知症の分類を、変性性認知症と二次性認知症に分類し、前者では、アルツハイマー型認知症(ATD)、レビー小体型認知症( DLB)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、ピック病、意味性認知症があり、後者は主に脳血管性認知症(VD)が該当する。各認知症の症例提示がなされ、その特徴と診断手段なとが丁寧なスライドにより説明された。

 次に今回のテーマである、認知症と意識障害について講演された。意識障害とは、物事を正しく理解することや、周囲の刺激に対する適切な反応が損なわれている状態をさす。また、意識の構成は「清明度」、「広がり」、「質的」の3つの要素があり、「広がり」の低下(意識の狭窄)は、催眠、昏睡、半昏睡、昏迷、失神。 「質的」変化(意識変容)はせん妄やもうろう等を生じる。また、覚醒の座は、主座は脳幹網様体調節系にあるとされ、もうひとつ認知に関しては大脳皮質全体に存在すると言われている。意識障害の場合は、この一方ないし両方が損害されている。即ち、意識障害をみた場合は脳幹、大脳皮質、全身性疾患の3つを考えれば良い。 DLB に起きたせん妄例や、大脳皮質の例として、クロイツフェルト•ヤコブ病、全身疾患例として肝性脳症、大脳皮質と脳幹合併例として低活動性せん妄例のスライドが紹介された。ここで河野メソー

ドの考え方として、認知症を意識障害で二群に分けると、覚醒系認知症(ATD. FTLD)では抑肝散やニコリン注射への反応が無反応なのに対して、意識障害系認知症(クロイツフェルトヤコブ病、DLB、代謝•内分泌系認知症、脳血管性認知症)などは良好な反応を示す。このような観点から、具体的な症例が以下提示された。急激に悪化したATDへの対応として、1)新病変の検索、2)薬の副作用のチェック、3)診断の変更を掲げ、パーキンソン病(PD)の診断では、歯車様筋拘縮の具体的な調べ方、レビー小体型認知症 (DLB) の意識障害3態、各症例にニコリンを投与して劇的に改善したスライドが紹介された。なぜ DLB は劇的に改善するのかのスライドでは、DLB はATDと違い脳萎縮が軽いため、元々意識回復の実力を秘めていることが視覚的に示され、なるほどと納得させられた。意識障害を消すことがDLB治療のコツであるという河野メソードが披露された。結局、意識障害系認知症では中核症状や周辺症状に薬剤を投与する前に意識障害を覚醒させないと話にならないわけである。ここからは、ニコリン注射療法の実際の投与方法がスライドで紹介された。

 次に、河野メソードの治療論が紹介された。脳萎縮は絶望ではないこと、誤った考え方は、周辺症状は、中核症状から派生したものだから、中核症状を治せば、周辺症状も消えるはず(アリセプト単独処方)であり、河野メソードでは、陽性症状をまず抑制系で落ち着かせてから中核症状改善薬を投入する。そのためには、今まで投与されてきたアリセプトをウオッシュアウトすること、抑制系を投入することが大事で、アリセプトを急にやめても脳内に17日間残るため、悪性症候群は起きないことが強調された。また、河野メソードでは家族にどうして欲しいかを聞くことが大事で、その具体作として、配布された資料コミュニケーションシートの利用を勧められた。ここからは河野メソードによる実際の症例がたくさんのスライドで提示された。その中から、アセチルコリンドーパミン天秤の概念やアリセプトとリスバダールをドパミン阻害ダブルバーガー称し、実際のハンバーガーをモチーフにしたスライドも提示された。また、健康補助食品として、NEWフェルガード(フェルラー酸+ガーデンアデリカ)の認知機能改善効果や、ルンベルクス•ルベルスの動脈硬化改善効果が紹介された。また、新薬紹介として、レミニール、メマリー、リバスタッチパッチに対する河野先生の評価が述べられた。最後に、1.一般医の認知症の参入は社会の強い要請、2.いわゆる専門医の医療レベルは、 惨憺たる状態である、3.薬物の種類、用量の規定は守るべからず、4.意識障害の解消なくして認知症治療は進まないことが、まとめのスライドで提示された。そして、名医への近道としてアリセプトを絞ること、ニコリン注射を多用することを掲げて、講演終了となった。以上、余りにも密度の濃い講演であったため、紙面では書ききれなかったが、詳しくは、河野先生の最新著書「高野メソードで見る認知症診療」(日本医事新報社)を一読されることをお薦めする。なお、この講演の感想を河野先生自身のブログ(http://dr-kono.blogzine.jp/ninchi/2012/10/)に掲載されておりますので、こ興味のある方は、このブログもご参照ください。

 (要約 浜 直)